その日、空にはぶ厚い雲が垂れ込んでいて、今にも重たい雨粒が落ちてきそうだった。
ぼくは朝から体調が悪く、登校するかどうか迷っていた。
だが、一日でも休めば、次に登校したときに向けられる視線に耐えられない。
母親は休んでいいと言ってくれた。
ぼくは首を左右に振り続けた。
「授業についていけなくなるのが嫌だから」
「無理しないようにね」
母親は心配そうな顔をして見送ってくれた。
体調は時間が経つにつれて悪くなった。
昼休み前の授業のとき、朝少しだけ食べた朝食をすべて吐き出した。
一瞬で、教室の空気が重たくなった。
多くの女子は顔つきが険しくなって、声を上げる者もいた。
男子は非難こそしなかった。
「大丈夫かよ、あいつ」
他人事のようにそう言っただけだ。
嘲笑するような声も聞こえた。
最初にぼくに駆け寄ってきたのは担任の教師でなく、彼女だった。
「梶君、大丈夫?」
彼女は制服のポケットからハンカチを取り出した。
顔色ひとつ変えずに、彼女はぼくの口周りを丁寧に拭う。
「大丈夫。そんなことより、ぼくなんかの相手をしたら……」
「相手をしたら?」
彼女は細い首を傾げて言った。
返す言葉がなかった。
「よし、これでとりあえずは大丈夫ね。先生、あとをお願いできますか?」
「わかった」
「私は梶君を保健室に連れて行きます。梶君、手を貸して」
「えっ、嫌だよ。みんなが見てる前で」
「なに恥ずかしがってるのよ」
彼女はぼくの手を強引に取って立たせて、肩にそっと手を置いた。
やわらかくてあたたかな手だった。
鼓動がはやくなった。
「ありがとう……」
「困ったときはお互い様でしょ」
彼女は満面の笑みで言った。
彼女が眩くて、ぼくは彼女の顔を見ることができなかった。
ぼくは朝から体調が悪く、登校するかどうか迷っていた。
だが、一日でも休めば、次に登校したときに向けられる視線に耐えられない。
母親は休んでいいと言ってくれた。
ぼくは首を左右に振り続けた。
「授業についていけなくなるのが嫌だから」
「無理しないようにね」
母親は心配そうな顔をして見送ってくれた。
体調は時間が経つにつれて悪くなった。
昼休み前の授業のとき、朝少しだけ食べた朝食をすべて吐き出した。
一瞬で、教室の空気が重たくなった。
多くの女子は顔つきが険しくなって、声を上げる者もいた。
男子は非難こそしなかった。
「大丈夫かよ、あいつ」
他人事のようにそう言っただけだ。
嘲笑するような声も聞こえた。
最初にぼくに駆け寄ってきたのは担任の教師でなく、彼女だった。
「梶君、大丈夫?」
彼女は制服のポケットからハンカチを取り出した。
顔色ひとつ変えずに、彼女はぼくの口周りを丁寧に拭う。
「大丈夫。そんなことより、ぼくなんかの相手をしたら……」
「相手をしたら?」
彼女は細い首を傾げて言った。
返す言葉がなかった。
「よし、これでとりあえずは大丈夫ね。先生、あとをお願いできますか?」
「わかった」
「私は梶君を保健室に連れて行きます。梶君、手を貸して」
「えっ、嫌だよ。みんなが見てる前で」
「なに恥ずかしがってるのよ」
彼女はぼくの手を強引に取って立たせて、肩にそっと手を置いた。
やわらかくてあたたかな手だった。
鼓動がはやくなった。
「ありがとう……」
「困ったときはお互い様でしょ」
彼女は満面の笑みで言った。
彼女が眩くて、ぼくは彼女の顔を見ることができなかった。
