【ほぼ実話】40歳、推し活女子。アプリで出会った42歳男性と10代みたいな恋をする

東京駅、丸ビル。
日が暮れた都会の喧騒の中、私は地下通路から1階へ向かうエスカレーターに乗り込んでいた。

(とうとう、本当に会うんだ……)

手すりにしがみつくように捕まり、逆の手で激しく打つ胸を押さえる。脂汗が滲むほどの猛烈な動悸。

元彼に突然捨てられた恐怖、結婚相談所で否定され続けた過去――男性と向き合うこと自体が、今の私には刃物を突きつけられるくらい怖い。

(また断られたらどうしよう。顔を見て落胆されたら……)

すがるようにコンパクトを取り出し、手鏡を覗き込む。

30分かけたメイク。
スプレーで絶妙に整えた前髪。服は若々しく見えるよう、ベージュのコートに茶色のニット、ふんわり揺れるプリーツスカートを合わせた。

だけど、目尻のシワだけは誤魔化せない。

(40歳だもの。若い子みたいにピチピチじゃない。でも……年齢を理由に『ハズレ』って顔をされるのは、もう嫌だ)

愛されたいのに、嫌われるのが怖くて逃げ出したくなる。
そんなチキンな私が、なぜ今日ここに来てしまったのか。

理由は単純。相手の男性が――あまりにも「人畜無害」すぎたからだ。

アプリでマッチングしてから最初の1ヶ月。

普通なら速攻で「LINE交換しよう」「会おう」と誘ってくる男性が多い中、彼はポイントを全投入して私に質問ばかり投げかけてきた。

『趣味は何ですか?』
『推し活!いいですね、誰推しですか?』
『紫?スミレさんという方ですね、イケメンですね!どんなところが好きなんですか?』

……質問攻めのまま、気づけば3ヶ月。

がっつかれるのも嫌だが、ここまで何も起きないと逆に「この人、何が目的なの!?」と不気味になってくる。
しびれを切らした私から「LINE交換しませんか?」と送った時のことだ。

『ありがとう!いいんですか?信頼してもらえたみたいで本当に嬉しいです!』

跳ね上がるような返信とともに表示されたアカウント名は――「石本和樹」。
本名フルネームである。

(いや、アプリの出会いに本名出す!? ネットリテラシーどうなってるの!?)

脱力すると同時に、その抜けたピュアさに警戒心がすーっと毒気を抜かれてしまった。

LINEがつながった途端、彼はまるで懐いた野良猫のように怒涛のメッセージを送ってきた。
旅先のご飯の写真、綺麗な風景、自分の仕事のこと(予約専門の高級タクシードライバーらしい)。

『車があると便利ですよね!お出かけの時はレンタカーでも借りて、ドライブを楽しみましょう』
『僕は、本当にともえさんとお付き合いしたいと思っています。一度、カフェでお話ししませんか?』

――そうして決まった、今日の初デート。

エスカレーターが1階に到着する。 案内掲示板の前に、その人は立っていた。
グレーのコートに、黒のパンツ。 センター分けの落ち着いた髪型。

背格好も体型もどこからどう見ても「ごく普通の40代男性」。
写真で見ていた通りの、石本和樹(42歳)さんだ。

(どうしてこの歳まで独身なんだろう……実は性格がめちゃくちゃ悪いのかな……)

失礼な妄想を膨らませていると、私に気づいた彼がパッと表情を明るくした。
そして、少し緊張で硬くなりながらも、くしゃっと柔らかく微笑んで近づいてくる。

「実際に会うのは、初めましてですね。石本和樹です」

少し上ずった声で、ぺこりと丁寧にお辞儀をする彼。
その目の奥には、私と同じくらい――ううん、私以上に「緊張して震えている」素朴な表情があった。

(あ……この人、本当に女性に慣れてないんだ)

あれほど私を苛んでいた嫌な動悸が、ほんの少しだけ、穏やかな拍動に変わり始めていた。