授業が始まっても、チョークの音は一切耳に入らなかった。
ノートの端に何度も”遥希”と書きそうになるのを、ペンを握る手に力を込めて必死に堪える。
右隣からは、彼がページをめくる微かな音や、服の擦れる音が聞こえてくる。
手を伸ばせば簡単に届く距離なのに、私と彼の間には見えない壁がそびえ立っているようだった。
昼休みになると、遥希の席にはすぐに人だかりができる。
「東京のどこにいたのっ!?」
「部活は何やってたー?」
質問攻めにする女子たちや、気さくに肩を叩く男子たちに対して、遥希は嫌な顔一つせず、けれどどこか一線を引いたように、淡々と答えていた。
その転校生としての振る舞いを見るたびに、私の胸はチクリと痛んだ。
私が知っている遥希は、もっと不器用で虫を見つけては騒いで、私が怒るとすぐに眉を下げて謝るような、そんな男の子だったはずなのに。
……なんだか少し、むかついてきた……!
行き場のない逆ギレ同然のイライラをどうすることも出来なくて、私は深く息を吐いた。

