だってさ、遥希。
さっきの声、すっごく震えてたじゃん。
放っておいて大丈夫なはずがないでしょっ……!
掴まれた袖を見つめ、遥希は足を止めた。
彼の背中が小さく震えている。
振り返った彼の顔は、あの5年前の夏の日にいつも浮かべていた、弱い男の子の顔に戻っていた。
ああ、やっぱり遥希なんだ。
そうはっきり確信できて、なぜだか涙が溢れそうになる。
けれど彼はすぐにその表情を冷たく戻し、私の手を優しく、けれど拒むように、ゆっくりと外した。
「言えない。……美空を、俺のヒドイ人生に巻き込みたくないんだ」
それだけを冷たい風のように残して、遥希は教室の引き戸を開け、去っていった。
バタン、と静かに閉まったドアの向こうには、もう彼の姿はない。
夕闇が刻一刻と迫る教室で、私は自分の手のひらを見つめたまま、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

