新入生の歓迎会は、4月の間はサークル棟での茶話会ですませ、宴会の場は、春のミニコンサートの打ち上げをかねて5月中旬に行われた。ミニコンサートは1年は裏方に回ってもらい、コンサートの雰囲気を知ってもらうことになっている。また先輩の中には、このミニコンサートを最後に合唱への参加をやめる人もいて、打ち上げも、明日までにエントリーシートの提出があるからと途中退席する人や、就活イベント帰りにリクルートスーツで参加してくれる人など様々だ。例年、追いだしコンパの次に参加人数が多い飲み会がこのミニコンサート打ち上げになる。
そんな中、賑やかなのは、神崎くんを取り囲んだ女子たちと、一年男子を巻き込んで笑いを取っている幸弘が座ったテーブルだった。幸弘と神崎くんは学校でも仲がいいらしく、自然と隣り合って動くことが多い。途中から、盛り上がっていない人たちを巻き込みに幸弘が動き回り始めるので、最終的にはばらばらになるが。
取り囲んだ女子たちは、神崎くんの情報を色々と聞き出しているようだった。えみりんは警戒するような目線を送りながらも、歓迎会の主役である一年女子や先輩に泣く泣く神崎くんの周りを譲ってあげている。必要な時には冷静になれるわきまえのある子だ。
「神崎先輩の、好きなタイプって、どんな人ですかー!?」
適当に相づちを打ってお茶を濁していた神崎くんが、不意に固まった。私からはその背中が見える。振り向きかけて、考え直すように止まり、また前を向く。
私の隣にいる早紀の方を見ようとしたんだろうな、と私は思った。
あれだけアピールしてくる恵美に少しも興味を持たず、早紀を選ぶのはなかなか見上げた男だ、などと内心思いながら、モスコミュールを一口、喉に流し込む。ついでに、箸を持った右手をから揚げに伸ばす。
少し冷めてきたから揚げをはむと口に入れたとき、隣から声がした。
「鈴木先輩は、金澤先輩と仲がいいんですか?」
最初は私たちの周りは自然と同じ大学の女子が集まっていたのだが、気づいたら横に新入生の男子が座っていた。佐藤豊、と言っていた気がする。身長は私より少し高いくらいか。元運動部っぽく日焼けしているが、髪は長めで、ワックスで無造作に散らしている。世に言う大学デビューなのか、気合いを入れてセットしているのが分かるが、急に頑張り始めた子は、大概1年以内にほとんど元に戻るものだと私は知っている。自分も多少そういうところがあったからだ。
「まあ、大学も学科も一緒だし」
何を隠そう、早紀をこのサークルに誘ったのは私なのだ。みんなもっと感謝してほしい。
「え、学科もなんすか?すげー。専攻、何なんすか?」
「日本文学だけど」
「すげー。俺、センターで古典、ボロボロでしたよ」
別に古典を専攻していると言ったわけではないのだが、苦手ではないから適当に相槌しておく。自慢じゃないけど国語は漢字以外満点だった。漢字一箇所を落として満点をのがした女として、むしろクラスで笑われたくらいだ。一方でただの暗記は不得意だから、暗記ものである社会科系の教科や生物、化学は大の苦手だ。
私の隣に座っている早紀は、同じ大学の新入生の女子たちと嬉しそうに話している。早紀は女子にもモテるのだ。我が女子大でもファンが多い。いや、女子大だからファンが多いのか。
「潜り込めないのかなぁ、講義」
「うちの?無理でしょ、男子は。中に入るにも、名前書かなきゃいけないよ。警備員さんいるから」
「えっ、警備?嘘でしょ?」
女子大では警備員の存在は割と当然だが、共学大学に通う子にとっては驚くことらしい。私は逆に、幸弘たちの学校に行くたび、勝手に入っていいのかなぁとなんとなく心配になったりするのだが。
「講義だって、一番大きい教室でも100人くらいだし。普通の講義は2、30人しかいないし」
「ええーっ、そんなこじんまりしてるんすか?」
「ものによっては、10人くらいの講義もあるよ」
驚く佐藤くんを横目に、私は考えてみる。男子学生が潜り込む方法……
「女装する?出席がゆるい講義だったらいけるかも」
「勘弁してください、諦めますから」
佐藤くんはそんなに本気じゃなかったらしい。まあそりゃそうだろう。私も妄想したら面白かったから、ついつい乗ってみただけだ。
「高校は、どうなんすか。一緒だったりするんすか」
「早紀と?ううん。私が一緒だったのは、サリーと幸弘」
「金澤先輩はどこ出身なんすか」
あからさま過ぎて腹をたてる気にもならず、私は苦笑いする。そうして口を開きかけたとき、
「気になるんなら、早紀ちゃんに直接聞いたら」
少し低い声が私たちの会話を遮った。
いつの間にやら前に立っていたのは神崎くんだ。先ほどの女子へのお愛想笑いも消え失せて、感情の分からない無表情な顔。美形がこういう顔をすると、なかなかの迫力だなぁと私は思った。
「それができたら、わざわざ私に聞かないでしょ」
私はへらへらと手を振りながら笑う。佐藤くんは小さくなって、すみませんと謝った。
それにしてもおかしなものだ、と私は思う。わざわざ自分のライバルに塩を送るようなこと言って。まあ、ライバルの内にも入らないと思っているのかもしれないし、私もそう思うけれど。
「鈴木さんも、嫌な時には嫌って言いなよ」
神崎くんがそう言って私を見る。いつも合わせてくれない目が、久々に合った、と思う間もなく、厳しい色を帯びた視線に、私は咄嗟に呼吸を忘れた。
一瞬、泣きそうになる。うわ、馬鹿みたい。こんなタイミングで泣くとか、ドン引きじゃないか。
慌てて目線を反らして、無理に笑った。
「別に嫌じゃないよー、早紀可愛いから、お近づきになりたい気持ち分かるし。私は女子だから話しかけやすいけど、男子だったらきっと同じことしてるもん」
「金澤先輩も素敵ですけど、コッコ先輩も魅力的ですよ!」
拳を作って力説してくれたのは、いつの間にかやはり近くに来ていたさがちゃん。こ、この子可愛すぎる。
「ありがとー、さがちゃん。さがちゃんも可愛いよ」
思わず、頭をわしゃわしゃと撫でる。念願叶ったり。さがちゃんは照れて慌てた。
「俺、男ですよ」
「男でも可愛いは有効。ね、サリー」
「もちろん有効」
少し離れた場所から様子を見ていたサリーが力強く親指を立てて同意すると、途中から聞いていた早紀もうふふと笑う。
「さがちゃん、髪型がちょっとうちのアイコに似てるかも」
「アイコ?」
「早紀の家の愛犬。茶色いトイプードル」
私が的確な注訳をつけると、さがちゃんは困ったように頭をかいた。
そうしてみんなが笑っているうちに、神崎くんはふいとその場を離れて行ってしまった。
悪いことしたな、と思う。あれって、たぶん、私を思って言ってくれたんだろうに。
なんだか後味の悪い思いを心中に抱えながらも、その場を楽しむ振りをした。
「香子。ちょっと酔い覚ましつきあってー」
解散のあいさつをして、二次会に行くかどうするか話している人たちから離れ、サリーは早紀と話していた私に声をかけた。鋭いサリーのことだ。もしかしたら私の様子に気づいたのかもしれない。
「うん、いいよ。私もコーヒー飲みたい」
お前も来い、と幸弘の首根っこをつかんでサリーが連行し、ささっと通りに入り込む。
「こばやんはどうするー?あれ、こばやんたち消えた」
「ほんとだ。帰ったんじゃね?」
みんなの声を後ろに聞きながら、4人で駅に向かって歩いていく。早紀は終電もとい終バスが早いので、大概二次会には参加せず帰る。みんなで駅まで早紀を送ってから、チェーン系のカフェに入った。
それぞれ飲み物を頼んで、席に腰掛ける。私とサリーはブレンドコーヒー。コーヒーが苦手な幸弘はホットミルク。彼は味覚が割とお子ちゃまで、お酒も一口飲むとすぐ真っ赤になってしまう。一方、素面でどこまでもついて行ける才能があるので、誰も気にしない。
「私さぁ、嫌われてるよねぇ」
珍しくうなだれる私を見て、幸弘とサリーは目を合わせた。
「誰に?」
「神崎くん」
途端、サリーがぶはーっと盛大に噴き出す。コーヒーを口に含んでなくてよかったけど、それ、ちょっと勢い良すぎじゃない。さすがに私でも女の子としてどうなのって思っちゃうけど。ていうか悩みを打ち明けた友達への反応じゃないでしょ。
幸弘が凄く困惑しているのが分かる。あー違うんだ、そんな困らせたい訳じゃないんだーーと思いながら、気のおけない二人だけしかいないからか、ちょっと目が潤む。珍しく酔っているみたいだ。
「一応、副部長だし。みんなと上手くやってーーは無理でも、せめて毒にも薬にもならないくらいには」
「何だ、ずいぶんネガティブだな」
酔ってるの。そういうことにしといて。
心中呟きながら嘆息する。たまには、愚痴ったっていいじゃない。人間だもの。と、某書家の言葉を思い浮かべる。
「力、入りすぎなんじゃね。少しは相ちゃんみたいにゆるっとしなよ」
幸弘が苦笑しながら言った。
うん、まあそうなんだけど……と声が小さくなる。
「ざっきーはさぁ、そのー」
幸弘が珍しく言葉を選んでいるのがわかる。少しして、思いついた!というように、目を輝かせて続けた。
「香子みたいなタイプに、初めて会うんだろ。だから、うまく接し方がわかんないんだ」
サリーが、ああまあそんなところかもね、とやっぱり笑っている。おかしい。友人の真剣な悩みに、こんなにライトな態度をとる子じゃないはずなのに。
「そんな、私を希少動物みたいに……」
客寄せパンダ。初めて幸弘が神崎くんを連れて来たときの自分の言葉を思い出しながら、私は唇を尖らせたけど、そういうことなら少しわかるような気がした。今まで接したことのないタイプ。ある意味私にとっての神崎くんもそうだからだ。
「でも、そう思えれば、いいかも」
ほとんど自分に言い聞かせるように、私は言った。
「焦らなくていいんだよね。まだ、一年あるんだもん。みんなで楽しめれば」
「そーそー。香子がいっつもまじめに頑張ってるの、みんなわかってるよ」
サリーが笑った。見た目は女の子らしいけど、結構さっぱりしたタイプだ。弟が二人いるからかもしれない。
自信持って。楽しくやろう。そう言って、サリーは私の肩を抱いた。
「うん、ありがとー」
ふざけて抱き着く。サリーもきゃーっと抱きとめてくれる。そんな酔っぱらった女子二人の様子を、幸弘が苦笑いして見ていた。
そんな中、賑やかなのは、神崎くんを取り囲んだ女子たちと、一年男子を巻き込んで笑いを取っている幸弘が座ったテーブルだった。幸弘と神崎くんは学校でも仲がいいらしく、自然と隣り合って動くことが多い。途中から、盛り上がっていない人たちを巻き込みに幸弘が動き回り始めるので、最終的にはばらばらになるが。
取り囲んだ女子たちは、神崎くんの情報を色々と聞き出しているようだった。えみりんは警戒するような目線を送りながらも、歓迎会の主役である一年女子や先輩に泣く泣く神崎くんの周りを譲ってあげている。必要な時には冷静になれるわきまえのある子だ。
「神崎先輩の、好きなタイプって、どんな人ですかー!?」
適当に相づちを打ってお茶を濁していた神崎くんが、不意に固まった。私からはその背中が見える。振り向きかけて、考え直すように止まり、また前を向く。
私の隣にいる早紀の方を見ようとしたんだろうな、と私は思った。
あれだけアピールしてくる恵美に少しも興味を持たず、早紀を選ぶのはなかなか見上げた男だ、などと内心思いながら、モスコミュールを一口、喉に流し込む。ついでに、箸を持った右手をから揚げに伸ばす。
少し冷めてきたから揚げをはむと口に入れたとき、隣から声がした。
「鈴木先輩は、金澤先輩と仲がいいんですか?」
最初は私たちの周りは自然と同じ大学の女子が集まっていたのだが、気づいたら横に新入生の男子が座っていた。佐藤豊、と言っていた気がする。身長は私より少し高いくらいか。元運動部っぽく日焼けしているが、髪は長めで、ワックスで無造作に散らしている。世に言う大学デビューなのか、気合いを入れてセットしているのが分かるが、急に頑張り始めた子は、大概1年以内にほとんど元に戻るものだと私は知っている。自分も多少そういうところがあったからだ。
「まあ、大学も学科も一緒だし」
何を隠そう、早紀をこのサークルに誘ったのは私なのだ。みんなもっと感謝してほしい。
「え、学科もなんすか?すげー。専攻、何なんすか?」
「日本文学だけど」
「すげー。俺、センターで古典、ボロボロでしたよ」
別に古典を専攻していると言ったわけではないのだが、苦手ではないから適当に相槌しておく。自慢じゃないけど国語は漢字以外満点だった。漢字一箇所を落として満点をのがした女として、むしろクラスで笑われたくらいだ。一方でただの暗記は不得意だから、暗記ものである社会科系の教科や生物、化学は大の苦手だ。
私の隣に座っている早紀は、同じ大学の新入生の女子たちと嬉しそうに話している。早紀は女子にもモテるのだ。我が女子大でもファンが多い。いや、女子大だからファンが多いのか。
「潜り込めないのかなぁ、講義」
「うちの?無理でしょ、男子は。中に入るにも、名前書かなきゃいけないよ。警備員さんいるから」
「えっ、警備?嘘でしょ?」
女子大では警備員の存在は割と当然だが、共学大学に通う子にとっては驚くことらしい。私は逆に、幸弘たちの学校に行くたび、勝手に入っていいのかなぁとなんとなく心配になったりするのだが。
「講義だって、一番大きい教室でも100人くらいだし。普通の講義は2、30人しかいないし」
「ええーっ、そんなこじんまりしてるんすか?」
「ものによっては、10人くらいの講義もあるよ」
驚く佐藤くんを横目に、私は考えてみる。男子学生が潜り込む方法……
「女装する?出席がゆるい講義だったらいけるかも」
「勘弁してください、諦めますから」
佐藤くんはそんなに本気じゃなかったらしい。まあそりゃそうだろう。私も妄想したら面白かったから、ついつい乗ってみただけだ。
「高校は、どうなんすか。一緒だったりするんすか」
「早紀と?ううん。私が一緒だったのは、サリーと幸弘」
「金澤先輩はどこ出身なんすか」
あからさま過ぎて腹をたてる気にもならず、私は苦笑いする。そうして口を開きかけたとき、
「気になるんなら、早紀ちゃんに直接聞いたら」
少し低い声が私たちの会話を遮った。
いつの間にやら前に立っていたのは神崎くんだ。先ほどの女子へのお愛想笑いも消え失せて、感情の分からない無表情な顔。美形がこういう顔をすると、なかなかの迫力だなぁと私は思った。
「それができたら、わざわざ私に聞かないでしょ」
私はへらへらと手を振りながら笑う。佐藤くんは小さくなって、すみませんと謝った。
それにしてもおかしなものだ、と私は思う。わざわざ自分のライバルに塩を送るようなこと言って。まあ、ライバルの内にも入らないと思っているのかもしれないし、私もそう思うけれど。
「鈴木さんも、嫌な時には嫌って言いなよ」
神崎くんがそう言って私を見る。いつも合わせてくれない目が、久々に合った、と思う間もなく、厳しい色を帯びた視線に、私は咄嗟に呼吸を忘れた。
一瞬、泣きそうになる。うわ、馬鹿みたい。こんなタイミングで泣くとか、ドン引きじゃないか。
慌てて目線を反らして、無理に笑った。
「別に嫌じゃないよー、早紀可愛いから、お近づきになりたい気持ち分かるし。私は女子だから話しかけやすいけど、男子だったらきっと同じことしてるもん」
「金澤先輩も素敵ですけど、コッコ先輩も魅力的ですよ!」
拳を作って力説してくれたのは、いつの間にかやはり近くに来ていたさがちゃん。こ、この子可愛すぎる。
「ありがとー、さがちゃん。さがちゃんも可愛いよ」
思わず、頭をわしゃわしゃと撫でる。念願叶ったり。さがちゃんは照れて慌てた。
「俺、男ですよ」
「男でも可愛いは有効。ね、サリー」
「もちろん有効」
少し離れた場所から様子を見ていたサリーが力強く親指を立てて同意すると、途中から聞いていた早紀もうふふと笑う。
「さがちゃん、髪型がちょっとうちのアイコに似てるかも」
「アイコ?」
「早紀の家の愛犬。茶色いトイプードル」
私が的確な注訳をつけると、さがちゃんは困ったように頭をかいた。
そうしてみんなが笑っているうちに、神崎くんはふいとその場を離れて行ってしまった。
悪いことしたな、と思う。あれって、たぶん、私を思って言ってくれたんだろうに。
なんだか後味の悪い思いを心中に抱えながらも、その場を楽しむ振りをした。
「香子。ちょっと酔い覚ましつきあってー」
解散のあいさつをして、二次会に行くかどうするか話している人たちから離れ、サリーは早紀と話していた私に声をかけた。鋭いサリーのことだ。もしかしたら私の様子に気づいたのかもしれない。
「うん、いいよ。私もコーヒー飲みたい」
お前も来い、と幸弘の首根っこをつかんでサリーが連行し、ささっと通りに入り込む。
「こばやんはどうするー?あれ、こばやんたち消えた」
「ほんとだ。帰ったんじゃね?」
みんなの声を後ろに聞きながら、4人で駅に向かって歩いていく。早紀は終電もとい終バスが早いので、大概二次会には参加せず帰る。みんなで駅まで早紀を送ってから、チェーン系のカフェに入った。
それぞれ飲み物を頼んで、席に腰掛ける。私とサリーはブレンドコーヒー。コーヒーが苦手な幸弘はホットミルク。彼は味覚が割とお子ちゃまで、お酒も一口飲むとすぐ真っ赤になってしまう。一方、素面でどこまでもついて行ける才能があるので、誰も気にしない。
「私さぁ、嫌われてるよねぇ」
珍しくうなだれる私を見て、幸弘とサリーは目を合わせた。
「誰に?」
「神崎くん」
途端、サリーがぶはーっと盛大に噴き出す。コーヒーを口に含んでなくてよかったけど、それ、ちょっと勢い良すぎじゃない。さすがに私でも女の子としてどうなのって思っちゃうけど。ていうか悩みを打ち明けた友達への反応じゃないでしょ。
幸弘が凄く困惑しているのが分かる。あー違うんだ、そんな困らせたい訳じゃないんだーーと思いながら、気のおけない二人だけしかいないからか、ちょっと目が潤む。珍しく酔っているみたいだ。
「一応、副部長だし。みんなと上手くやってーーは無理でも、せめて毒にも薬にもならないくらいには」
「何だ、ずいぶんネガティブだな」
酔ってるの。そういうことにしといて。
心中呟きながら嘆息する。たまには、愚痴ったっていいじゃない。人間だもの。と、某書家の言葉を思い浮かべる。
「力、入りすぎなんじゃね。少しは相ちゃんみたいにゆるっとしなよ」
幸弘が苦笑しながら言った。
うん、まあそうなんだけど……と声が小さくなる。
「ざっきーはさぁ、そのー」
幸弘が珍しく言葉を選んでいるのがわかる。少しして、思いついた!というように、目を輝かせて続けた。
「香子みたいなタイプに、初めて会うんだろ。だから、うまく接し方がわかんないんだ」
サリーが、ああまあそんなところかもね、とやっぱり笑っている。おかしい。友人の真剣な悩みに、こんなにライトな態度をとる子じゃないはずなのに。
「そんな、私を希少動物みたいに……」
客寄せパンダ。初めて幸弘が神崎くんを連れて来たときの自分の言葉を思い出しながら、私は唇を尖らせたけど、そういうことなら少しわかるような気がした。今まで接したことのないタイプ。ある意味私にとっての神崎くんもそうだからだ。
「でも、そう思えれば、いいかも」
ほとんど自分に言い聞かせるように、私は言った。
「焦らなくていいんだよね。まだ、一年あるんだもん。みんなで楽しめれば」
「そーそー。香子がいっつもまじめに頑張ってるの、みんなわかってるよ」
サリーが笑った。見た目は女の子らしいけど、結構さっぱりしたタイプだ。弟が二人いるからかもしれない。
自信持って。楽しくやろう。そう言って、サリーは私の肩を抱いた。
「うん、ありがとー」
ふざけて抱き着く。サリーもきゃーっと抱きとめてくれる。そんな酔っぱらった女子二人の様子を、幸弘が苦笑いして見ていた。

