『白い盾 〜不器用なドクターの特効薬〜』

食事を終えた三人は、会計を済ませて帰宅することになった。

健診のお値段は、秘密。

亜耶奈はクリアファイルに入った手続き書類を胸に抱え、完璧な所作で三人の前に立った。

「結果は後日、ご郵送にてお届けいたします。何かご不明な点がございましたら、どうぞご遠慮なくお申し出ください。本日も当クリニックをご利用いただき、誠にありがとうございました。お車の準備が整いましたので、どうぞお気をつけてお帰りください」

流れるような、完璧なプロの接遇。神楽院長は、深く満足そうに頷いた。

「いや、千歳さん。本当に見事な案内だった。これなら、私の病院の職員たちも安心して健診を任せられるな。……日向、お前には本当にもったいないお嬢さんだ。大事にしなさいよ」

「分かってるよ、親父。言われなくても、一生、俺が盾になって守るから」

日向は父親の隣で、嬉しそうに胸を張った。

お母様も亜耶奈の手をそっと優しく握りしめる。

「亜耶奈さん、今日は本当にありがとう。今度はぜひ、神楽の家へ遊びにいらしてね。美味しいお料理を準備して待っているわ」

「はい。お誘いいただき光栄です。お母様、ありがとうございます」

エントランスの前に神楽家の車が静かに滑り込み、ご両親が先に乗り込んでいく。

日向は最後にドアに手をかけたまま振り返り、亜耶奈だけに聞こえる声で囁いた。

「じゃあ、俺も親父たちと一緒に、一度実家に戻るね。……今日、夜遅くなっちゃうかもしれないけど、用事が終わったらすぐに君の家に帰るから。待ってて」

「はい。気をつけて行ってきてくださいね、日向さん」

亜耶奈がそっと微笑むと、日向は愛おしそうに目を細め、小さく手を振って車へと乗り込んだ。

静かに走り出す高級車。

亜耶奈は、その姿が見えなくなるまで、ずっとエントランスの前で深く頭を下げ続けていた。

大嫌いだった、孤独で冷たい「病院」という場所。

けれど、今の亜耶奈のそばには、白衣を着ていなくても自分を全力で守ってくれる最愛のドクターがいる。そして、新しい娘として自分を迎え入れてくれる、温かい家族もいる。

大嫌いだった病院の景色は、今、たくさんの祝福と愛に満ちた、世界で一番安心できる約束の場所へと、完全に書き換えられたのだった。