元カレ副社長は、初恋を拗らせていた



 神谷くんと付き合い始めてから、毎日が幸せだった。

 学校では、彼は変わらず陽キャの友達と一緒にいた。

 私といる時とは違う、楽しそうな顔。私とは交わさない軽い冗談。気安く彼の肩や腕に触れる女の子たち。

 付き合う前から知っていた光景なのに、今はなぜか気になってしまう。

 彼の周りにいる女の子たちは、メイクをして、制服も可愛く着崩していた。彼と自然に笑い合う姿は、私よりずっと、その隣に似合って見えた。

 私といて、本当に楽しいのかな。

 そんなことを考えるたびに、彼がくれた優しい言葉を思い出した。それでも、一度気になり始めると、些細なことまで目についてしまう。

 幸せなはずなのに、少しずつ自分に自信が持てなくなっていた。

 そんなある日。

 視聴覚室での授業を終えて教室に戻った私は、ノートを忘れてきたことに気づいた。

 取りに戻ると、開いたドアの向こうから、神谷くんたちの笑い声が聞こえてきた。

 まだ残っていたんだ。

 そう思って中に入ろうとした時だった。

 「こじ、いつまで小林さんと付き合ってんの?」

 自分の名前が聞こえて、足が止まった。

 「そうそう! 最近、放課後全然遊べないじゃん〜」
 「まさか、本気なわけ?」

 心臓が、どくん、どくんと嫌な音を立てる。

 ここにいちゃいけない。聞いちゃいけない。

 なのに、その場から動けなかった。

 「いや、本気なわけないだろ」

 息が止まった。

 胸の奥で、何かが音もなく崩れた。

 次の瞬間、私は踵を返し走り出していた。

 あれは、確かに神谷くんの声だった。