茜色の夕日をもう一度君と

入学式の帰り道、公園で一人、制服を着てベンチに座っている女の子を見つけた。
その制服は、俺が入学した学校の制服と同じだった。
「あ、この人も同じ学校の人なんだなー」
そう思いながら、家への道を進めた。
しかし、すぐ立ち止まってしまった。
なぜなら、その女の子はスマホも見ていなければ、何か食べたりしているわけでもなく、ずーっと空を見上げていたからだ。
特に空に変な雲があったとか、そういうわけでもなく、ごくごく普通の空だった。
なのになんで、空をずーっと見ているんだろう。
すごい気になった。
俺は初対面の人に話しかけるのは恥ずかしくて苦手なタイプだが、同じ学校の人だし、気になるから声をかけに行った。
「何してるのー?」
そしたらその女の子は、驚いたようにこっちを見た。
「誰……? あ……同じ学校の人……?」
そう言いながら、軽く頭を下げてきた。
そりゃそういう反応になるわけだ。今日が入学式だったので、お互い話したことがあるわけないし、なにより異性である。
俺は緊張とその返事で固まってしまった。
そして、その雰囲気や緊張、気まずさに耐えられず、俺は言った。
「ああ……ご、ごめん。気にしないで! 急に話しかけてごめん」
そう言ってその場を立ち去ろうとした。
そしたら、その女の子から声をかけられた。
「帰っちゃうの?」
寂しそうな表情をしていた。
「話しかけてくれて嬉しかったよ! せっかくなんだし、少し話そうよ」
そう言われた。
俺は驚きながら、
「うん!」
と言って、その女の子の横に座った。
異性と公園のベンチで一緒に座っているのが、自分でも信じられなかった。
『いやー、緊張するな。帰りたいかも……』
そう思っていたら、彼女が話しかけてきた。
「さっきの何してるのっていう質問への答えだけど、私は空を見るのが好きなんだー。空を見てると、色んな事から一回解放される気がするし、なんか気持ちが少し軽くなるんだよね。空を見ている時間っていうのはとても幸せ。だからさっき、気持ちを軽くするために空をずっと眺めていたんだっ!」
「なるほどね」
俺はそう答えるので精一杯だった。
緊張して、続きの言葉が出てこなかった。
しかし、彼女の思ってる事を知れたことは凄く嬉しかった。
話が続かず、また気まずい空気が流れてしまった。
でも、せっかく彼女が教えてくれたんだし、俺が今度は何か言わないとな――そう思って、話すことを考えていた。
そしたら、まだ彼女の名前を知らないことに気づいた。
「君……名前はなんて言うの?」
勇気を出して聞いた。
彼女は言った。
確かにお互い自己紹介してなかったね笑 赤井環奈だよ〜。よろしくね♪ 環奈って呼んでね」
続いて、
「君の名前は?」
と聞いてきた。
「俺は空野夕陽。夕方の夕に、陽だまりの陽って書くよ。俺のことも名前の夕陽って呼んでね! よろしく!」
そう答えた。
そしたら彼女は、
「夕陽……すっごい良い名前だね!」
と言ってくれた。
俺は嬉しいながら、どこが良いんだろうと思い、
「どこが?」
と聞いた。
そしたら彼女は、笑いながら言った。
「私、夕方の茜色の夕日を見るのが一番好きなんだ! 今日は入学式でお昼には終わっちゃったから、まだ空青いけど。まあこの空も好きではあるんだけどね。ってわけで、君の名前の漢字とは違うかもしれないけど、夕日がすごい好きだし綺麗だなって思うから、君の名前も素敵だなって笑」
「私が夕日が好きだからなんて理由、聞いたところで君にはどうでも良かったよね笑笑」
でも俺は、名前を褒められたこと自体がとても嬉しかった。
「ううん、どうでも良くないよ! 良い名前って言ってくれて嬉しい笑 ありがと!」
なんか、ほんの少しだけ距離が縮まった気がして嬉しかった。
そこからお互い特に話すことはなく、ずっと二人で空を眺めていた。
俺は、彼女の言っていることが分かった気がした。
空を眺めていたら、本当に気持ちが軽くなる気がするって事に。
そんな事を呑気に感じていたが、ハッと我に返った。
俺は今、何しているんだろう。
今日初めて会った同じ学校の異性と、公園のベンチで一緒に座っている。
改めて凄い事だと感じた。
そろそろ帰るか。
そう思って立ち上がった瞬間、彼女も我に返ったようでこちらを見つめてきた。
そしてまたもや寂しそうな表情をしながらも、
「流石にもう帰らないとだよね」
と言われた。
俺ももっと一緒にいたい気持ちはあったが、もう帰らないとお母さんから心配されると思った。
そして俺のスマホは親の管理下であるため、位置情報も親が見れば分かってしまう。
なので今日は、もう帰らざるを得なかった。
「これ以上遅いとお母さんが心配しちゃうから、ごめんね」
そう言って手を振った。
彼女も振り返してくれた。
帰ろうと二、三歩歩いた時、突然後ろから環奈に言われた。
「さっきも言ったかも知れないけど話しかけてくれてありがとう! すっごい嬉しかったよ! また話そうね」
俺も答えた。
「こちらこそ! また話そう!」
そう言って、お互いが帰路についた。