こっちを、むいて。

結局30分くらいでお二人さんは戻ってきてくれちゃったから、オレは浅羽にエプロンを渡してその後は本店の手伝いをした。

その後出店は予定通り18時に店じまいをしたため、カップルを先に帰した。

オレからしたら目に毒だというのに平気で二人とも注いでくる。

これだから天然素直鈍感カップルは困る。

ま、ある意味似た二人だから扱いやすいっちゃ扱いやすいのだけど。


「悠雅、今日はありがとね。あとはお母さんと締め作業やるから先帰ってていいよ」

「んじゃ、お言葉に甘えて」


オレは姉と母に夕飯の用意をしておくとだけ伝えると先に店を後にした。

夕飯と言っても昨日の残りのカレーをあっためて置くだけだから何の心配もない。

さっさと帰って任務をこなしたら勉強しよ。

明日からまた毎日勉強三昧なのだから。

休んでいる暇なんてない。

今やらなければ輝かしい未来は待っていないのだから。

一刻も早く帰ろうと足を速めた直後。

オレの視界に見覚えのあるシルエットが映り込んだ。

時の鐘の前でしゃがみ込み、呆けている。

無視…しても良かったのだが、

なんとなくそれははばかれて

気づけばオレは彼女に駆け寄っていた。


「こんなとこで何してんの?」

「…あ、弥代先輩」


顔を上げてこちらをそのつぶらな瞳で見つめる。

まるで迷子の子犬のように。


「弥代先輩こそどうしてここに?」

「姉の店の手伝いして、その帰り」

「そう、ですか…」


ふと、屋上で話したあの日のことを思い出す。

そういえば、オレ、いろいろ言い訳してシロの誘いを断っていたんだった。

なのにこんなとこで堂々と会っちゃうなんて、さ。

あの時の言い訳も無意味だったってことか。

と、オレのことはどうでもいい。

今はとりあえず目の前で苦悶の表情を浮かべてるこの子をどうにかしないと。


「待ち人でもいるわけ?」


シロは首を真横に振ると、蚊の鳴くような声でつぶやいた。


「お恥ずかしながら、足をくじいてしまって…」

「え?」

「あはは、ドジですよね、わたし。でもだんだん痛みひいてきたので歩けるかと思います」


シロは立ち上がろうとしたものの、少しおしりを浮かせたところで顔をゆがめた。


「もうちょっと時間かかるみたいです…。あの、わたしは大丈夫なので先輩は帰っていただいて構いません。これからお勉強とかやることあると思いますし、わたしに構わずどうぞどうぞ」

「いや、でも」


オレがそういうと、シロがキリっと睨んできた。


「大丈夫は大丈夫、そのままの意味です。わたしにとっては先輩の貴重なお時間をとらせてしまうことのほうが気に病むので…。帰ってください」


今すげえはっきり言い切ったな。

いつもはわりとふわっとした話し方なのに。

よほどオレといるのがいやなのか。


「はいはい、わかったよ」


オレは吐き捨てるようにそういうと踵を返した。

そしてそのまま何も考えず、本当に家まで帰った。