こっちを、むいて。

オレのスケジュールに則り、無事店舗運営が成功し一息ついて来たころに彼はやって来た。


「昊くん!」

「風花の晴れ姿見に来たよ。弥代くんもお久しぶり。今日はありがとう、風花のフォローしてくれて」


浅羽昊透。

保泉さんのカレシになった人。

おしゃべりオタクの何某さんから聞いたところによると、どうやら小学生のころから両片思いだったらしく、すれ違いの末ようやく今の関係に落ち着いたとのこと。

最初からオレの入る隙間は1ミリもなかったのだと、黒歴史絵を生成しまくった今更になって知るという悲劇をオレは味わった。

今もだいぶ上級カレシ面しまくっている浅羽にはイラっと来るが、彼女がひまわりみたいな優しくてあたたかなまなざしを向けてほほ笑んでいるのだから何も文句は言えない。

浅羽がちゃんとカレシをやってくれていて、彼女が幸せならばそれが正解なんだ。

と頭では分かっていても、心のどこかでなんで俺じゃないんだって思ってて

だから梅雨の時期の空模様みたいに

曇ったり、泣いたり、時に晴れ間を見せたりして厄介になってる。

こんなめんどくさい思考になるくらいならば捨ててしまいたいくらいだが出来るわけがないので

なんとか折り合いをつけて生きる。

そして、空気を読んですべきことをする。

腕時計をチラッと見ると午後4時。

11時から働きっぱなしだというのに休憩もろくに出来てない。

ということで、オレは提案する。


「ここでいちゃつかれても困るから…浅羽」

「何?」


察しろと言いたいが、この男も彼女ばりに素直すぎて鈍感ゆえに言わねばわからない。

オレはふうっとわざとらしく息をついてから放った。


「保泉さんをどっか連れてって」

「え?でもそうしたらここ一人になるし弥代くんクレープ焼けないじゃん」


オロオロする彼女を見てまた笑いたくなって、思わず相好を崩した。


「材料もうほとんどないから母さんにこっち持って来てもらうついでにヘルプに入ってもらう。それまでの間はドリンクだけ売ってるから大丈夫」

「ほんとにいいの?」


小首を傾げこっちを見つめてくる。

そういうのほんとやめてほしい。

アラートが鳴り出したから、さっさと追い出しにかかる。


「オレは保泉さんと違って器用で賢いんでなんとでもなるから。はい、行った行った」

「え?あ、うん。じゃあよろしくね!」

「もう一生帰ってこなくてもいいからー」


浅羽に腕を掴まれ彼女の姿はみるみる小さくなっていった。

よし、これでいい。

あっという間に人の波にさらわれ消えて行ってくれてほんと良かった。

これで残響でもあったりしたら、またこびりついて当分離れないから。

浅羽のポジションにオレがいて、オレが彼女と…なんて考えてしまうから。

いいってことにして、飲み込んで。

さっきまでの微熱を恨んで熱風を吸い込む。


「はぁ…」


でっかいため息をついたところで、隣のイカ焼きのおばちゃんには、あらまぁなんて、解釈の余地しかない反応をされた。

その後もオレはテキトーに店番をしながら英語の歌を口ずさんで勉強した気になったりなどして残り時間をやり過ごしたのだった。