こっちを、むいて。

「はは。っあははは!はははははっ!」

「えっ?!な、なな、なんですか?!」


すっかり冷え切ってしまった不出来な卵焼きを箸でツンツンしていると突然笑い声が聞こえた。

お腹を抱えてめっちゃ笑ってる。

わたしは目を瞬かせてただ見つめることしかできなかった。

数分間これまであった突然の出来事に圧倒されボケーっとしていたら

知らぬ間に

隣に、いた。


「もう諦めてんの?」

「えっ?」


わたしの隣に憧れのお方が座る。

あぐらをかいてひとつ欠伸をしてからこっちを見る。


「見たとこ、君さぁ新入生じゃん。もうぼっち決め込んだのかって思って」


まさか、心配してくださってる…?


「そ、そんなことは…」

「ならさ、こんなとこいないでクラス戻ったら?最初失敗すると後々後悔するよ?ま、オレみたいに望んで孤独を選んでるなら別にかまわないけど」

「先輩は…ぼっちなんですか?こんなにも眩しいのに…」


思ったことが、いや、今までずっと思ってきたことがそのまま言葉になった。


「眩しい?」

「はい。わたしには強烈な太陽光線です。近くにいたら焦がされそうなくらいに」


強烈な太陽光線…。

我ながら良い表現をしたと思う。

あの日あの時あの場所で、

わたしはこの強烈な光に貫かれたんだ。

そして、今…

偶然か必然かわからないけど、

ずっとお会いしたかった憧れの人の隣にいちゃってる。

もうすでに感情はしっちゃかめっちゃか。

嬉しいもびっくりも何もかも混とんとしていて輪郭がぼやけてるけど、

ただ一つ確かなことがある。


「君、名前は?」


憧れのお方が多少なりともわたしに興味を持って下さったみたい。

なら少しだけ…。

相手に身体を向け、視線を上げて見つめる。

あの時の荒々しくて殺気立っててひたすらにかっこよかった瞳とは違う。

透き通ってて物事をきれいに見通せそうな瞳だと思った。

そんな魅力的な瞳にわたしなんかが映って良いものか。

なんて悩む暇などない。

まずは自己紹介をして

ちゃんと認知してもらわなければ。


「白鐘咲優(しらかねさゆ)です。あっ、1年5組です」

「そ。じゃ、オレも自己紹介するわ。オレは…」

「弥代悠雅、さん」


あ、言っちゃった。


「えっ?なんでオレの名前知ってるの?」


それはもちろん、ずっとお会いしたくて、毎日受験勉強を頑張った後のご褒美にって、あの日の映像をエンドレスループしていましたので。

なんて、言えるわけもなく。

そんなこと言ったら間違いなくストーカーと思われて学園追放になってしまうから、

わたしは数秒考えて絞り出した。


「先輩、有名人なので」


どうやら憧れのお方…弥代先輩は本当に知らなかったみたい。

自分の映像がYouTubeに上げられていることを。

というより…

見ても触れてもいない。

その日先輩の口からギターの話が出ることはなかった。

ううん。

その次の日も

そのまた次の週、気まぐれにやってきた日も、

ギターのギの字も言わなかった。

わたしはうっすらわかっていた。

今はもう斜陽だって。

確信を得たくてわたしは行った。

場違いオーラをビンビンに放ちながら、あの日のライブハウスに乗り込んだ。

そして聞いた。

応えは予想通りだった。

いつまでもあの日で停滞して一人で浮足立ってスキップしてるうちに

先輩はもう…この道を歩いてさえいなかった。

その事実を受け止めてもなお、わたしは…

そばにいたいと思った。

何があったのか知りたい。

わたしにできることがあるならば何でもしたい。

あの日救ってくれたわたしのヒーローのために

わたしはなんだってするつもり。

それくらいなら、何も持たない私でもできるから。

お願いです。

もう一度、歌を聞かせてください。

わたしの道しるべになってくれた

苦しくもあたたかな

まるで業火のようだった

あの歌を。