その朝、村木家の庭には、柔らかな春の陽射しが降り注いでいた。
風が吹くたび、庭先の桜がはらはらと花びらを散らす。
まるで今日という日を祝福しているかのように。
「……お嬢様。本当に、お綺麗でございますね」
鏡の前に座る私を見つめ、ばあやが目元をそっと押さえた。
「もう、ばあやったら。まだ泣くのは早いわ」
そう言って笑ったつもりだったのに、私の声も少しだけ震えてしまった。
無事に高等女学校を卒業した春のこと。
今日、私は花嫁になる。
白無垢に身を包み、これから生涯をともにする人のもとへ嫁ぐのだ。
鏡の中には、見慣れない自分がいた。
いつもは桃色の着物を好み、少しでも気になることがあれば、すぐに顔に出てしまう私。
そんな私が今は、純白の白無垢をまとい、綿帽子の下でおとなしく座っている。
なんだか、自分ではない誰かになったような気さえした。
