「申し訳ございません、少尉様! 私ったら、なんということを……」
「いえ。お怪我はありませんか」
千紘は、まずそう尋ねた。
「は、はい。私は何とも……」
「それならよかった」
千紘は、ほっとしたように手を離した。
それから、ばあやが持っていた盆を自然な仕草で受け取った。
「こちらは私がお持ちします。どうぞ、ゆっくりお入りください」
「そ、そんな! 少尉様にそのようなことをしていただくわけには……!」
「構いません。先ほど、少し足を取られたようでしたから」
千紘の声は穏やかだった。
相手が年老いた女中だからといって、見下すような様子も、特別に気を遣わせるような様子もない。
まるで、当たり前のことをしているだけだというように。
ばあやは恐縮しながらも、千紘の後について廊下へ上がった。
