大正十年、春。
女学校の門を出ると、淡い桜色の花びらが風に乗って舞い上がった。
「小春、待って!」
聞き慣れた声に振り返れば、親友の飯島麻友子が、鞄を抱えて駆け寄ってくる。
「もう、麻友子ったら。そんなに急がなくても待っているわよ」
「だって、小春は歩くのが早いんだもの!」
「そうかしら?」
「そうよ!」
麻友子は頬を膨らませたあと、すぐに楽しそうに笑った。
その顔を見て、私もつられて笑う。
春の陽気に包まれた帰り道。こうして友人と他愛のない話をしながら歩く時間が、私は好きだった。
けれど、その日の麻友子は、いつもより少し浮き足立っていた。
「ねえ、小春。聞いた?」
「何を?」
「お梅さん、縁談が決まったんですって!」
「ええっ、本当!?」
思わず声が大きくなる。
「お相手はお梅さんのお家と同じ、貿易商を営んでいる方の次男さんだとか。お梅さんのお家は娘しかいないから、お婿さんをとった…と言ったところかしら」
「…ってことは、やっぱり親が決めた縁談ってことね」
私は、舞い落ちる桜の花びらを目で追った。
