その日は、朝から静かな雨が降っていた。
葛城家の縁側に腰を下ろし、庭に咲く花々を眺めていると、雨粒が葉先からぽたりと落ちた。
先日、私はとうとう自分の気持ちを千紘さまに伝えた。
胸の奥にしまっていた想いを、ようやく言葉にできたのだ。
けれど、想いを伝えたからといって、千紘さまのことをすべて知ったわけではない。
むしろ、知れば知るほど、この方のことをもっと知りたいと思うようになっていた。
「小春さん」
声に振り向くと、軍服姿の千紘さまが立っていた。
雨に濡れた外套を手に、いつもと変わらぬ穏やかな表情を浮かべている。
「千紘さま。お帰りなさいませ」
そう呼ぶと、千紘さまは一瞬だけ目を見開いた。
それから、少し照れたように目元を和らげた。
「……その呼び方をしていただけるのは、嬉しいものですね」
「そ、そうですか……?」
思わず頬が熱くなる。
けれど、千紘さまはそれ以上からかうことなく、私の隣に腰を下ろした。
二人で、しばらく雨の庭を眺める。
やがて千紘さまが、静かに口を開いた。
「小春さんに、お話ししたいことがあるのです」
「お話し……?」
「ええ。僕が、あなたを初めて見かけた日のことを」
思いがけない言葉に、私は目を瞬かせた。
「初めて……?」
「ええ。あなたは覚えていらっしゃらないでしょうね」
千紘さまは、雨に濡れる庭へと視線を向けた。
「二年前の、雨の日でした」
