大正初恋浪漫譚ー突然、陸軍少尉の婚約者になりましたが、どうやら彼は私に恋をしていたようですー



客間に顔を出すべきか、それとも、今は遠慮しておくべきか。

そんなことを考えながら階段を下りると、見覚えのある軍服姿が見えた。


ーーー少尉だった。

どうやら、兄との話がひと段落したところらしい。

千紘は庭を眺めながら、何かを待っているようだった。

そのとき。


「あっ……!」


庭先から、ばあやの小さな声が聞こえた。

見ると、ばあやが盆を手に、庭から廊下へ上がろうとしていた。

足元には、庭石のわずかな段差がある。

長年この家に仕えてくれているばあやは、近頃、以前よりも足元がおぼつかなくなっていた。


小春は思わず駆け寄ろうとした。

けれど、その前に。


「危ない!」


千紘が素早く手を伸ばした。

傾きかけた盆を支え、ばあやの身体が崩れるのを、もう片方の手でそっと受け止める。

盆の上で茶器がかすかに触れ合ったものの、幸い、何一つ落ちることはなかった。


「まあ……!」


ばあやは目を丸くした。