大正初恋浪漫譚ー突然、陸軍少尉の婚約者になりましたが、どうやら彼は私に恋をしていたようですー

 


――どうしよう。

朝から、私はずっと困っていた。

理由は、たったひとつ。

少尉のことを、意識してしまうのだ。

ついこの前までは、こんなことはなかった……と思う。

少尉が優しく微笑んでくれるのも、私の歩調に合わせて歩いてくれるのも、何気ない言葉をかけてくれるのも。

もちろん、嬉しかった。

けれど今は、そのひとつひとつに胸が騒いで、どうにも落ち着かない。


少尉は、いつもどおりなのに。


「小春さん?」

「は、はいっ!」


廊下を歩いていた私は、名前を呼ばれただけで飛び上がりそうになった。

振り返れば、そこにはいつもと変わらない千紘さ……ではなく、少尉の姿。


危ない。

今、うっかり心の中で、いつもとは違う呼び方をしてしまった。


「どうかなさいましたか?」

「い、いえ! 何でもありません!」

「そうですか?」


少尉は少しだけ首を傾げた。

その仕草さえ、今日は妙に目に焼きついてしまう。