けれど、それだけだ。
あの方がどんなものを好み、どんなことに喜び、何を大切にして生きていらっしゃるのか。
小春は、彼について何一つ知らなかった。
「そんな方と、いきなり夫婦になるだなんて……」
口にしてみると、途端に現実味が増した。
小春は慌てて首を振る。
いけない、いけない。
まだ決まったわけではないのだから。
「朝からこんなことを考えていたら、何も手につかなくなってしまうわ!」
ぱちん、と両手で頬を軽く叩く。
そうよ。
まだ婚約すると決めたわけではないのだから。
まずは、いつもどおりに過ごそう。
そう自分に言い聞かせ、私は部屋を出た。
