自室へ戻った私は、窓辺に腰を下ろした。
庭の桜は、今日も変わらず美しく咲いている。
けれど、私の心は少しも穏やかではなかった。
葛城千紘少尉。
物静かで、礼儀正しくて、どこか不思議な人。
あの方と、これから先、夫婦になるかもしれないなんて。
そんなこと、今はまだ考えられない。
私は、自分の好きになった人と結婚したい。
自分の人生は、自分で選びたい。
その気持ちに、嘘はなかった。
それなのに。
ふと、客間で目が合ったときの、少尉の穏やかな眼差しが脳裏をよぎった。
あの方は、いったい何を考えていらっしゃるのだろう。
どうして、私との婚約を受け入れようとしているのだろう。
気づけば私は、少尉のことを考えていた。
突然、目の前に現れた縁談。
そして、まだ何も知らない、一人の青年将校。
この出会いが私の人生を変えることになるなんて。
このときの私は、まだ夢にも思っていなかった。
