虚無に咲く華

バタン。

車のドアが閉まった。

大河が運転席に乗り込み、バックミラーで後部座席を確認する。

「裕也さん、ご自宅でよろしいですか?」

「ああ、頼む」

車は静かに走り出した。

窓の外では、中華街の色鮮やかな看板が次々と後ろへ流れていく。

裕也は隣に座る女へ目を向けた。

自分のロングコートにすっぽりと包まれ、座席の端で小さくなっている。

長い黒髪が顔を覆い、表情はほとんど見えない。

「……なあ」

返事はない。

「もしかして……アイツらの探しもんって、お前か?」

女は顔を上げなかった。

裕也はしばらく様子を見ていたが、やがて鼻で小さく笑った。

「ったく……なんか、めんどくせぇもん拾っちまったな」

女の肩がわずかに震えた。

「……心配すんな」

裕也は窓の外へ視線を戻した。

「渡さねぇから」

女は何も答えなかった。

ただ、コートの端を握る指に、少しだけ力がこもった。

バックミラー越しに二人を見ていた大河が口を開いた。

「裕也さん」

「あ?」

「先ほどの連中が探していた人物だとしたら、少々厄介なことになるかと」

「だろうな」

「……それでも、お連れになるんですか?」

裕也は女をちらりと見た。

「お前、こいつをあそこに置いて帰れたか?」

大河はバックミラーへ目を向けた。

「……いえ」

「だったら、そういうことだ」

「承知しました」

大河はそれ以上何も言わず、ハンドルを握り直した。

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