虚無に咲く華



裕也が振り返る。

そこには、黒いスーツ姿の強面の男が立っていた。

「ああ!お前か!」

裕也は片手を上げた。

「おう、久しぶりだな!」

「ご無沙汰しております!」

男は深々と頭を下げる。

見覚えのある顔だった。

北竜会の人間だ。

「今夜はずいぶん騒がしいじゃねぇか。相変わらず抗争か?」

裕也が冗談めかして笑う。

男は軽く首を振った。

「いや、違います」

「じゃあ、何だよ?」

「まあ……人探しですわ」

「人探し?」

裕也は片眉を上げた。

「どんなヤツだよ」

男は一瞬、言葉を止めた。

「いや…………大したことないんで」

「ふうん?」

裕也は男の顔を見た。

それ以上話す気はなさそうだ。

他所の組織の事情に、わざわざ首を突っ込むほど暇でもない。

「そうか。まあ、頑張れよ」

「ありがとうございます」

「また親分によろしくな」

「はい!分かりました!」

男はもう一度頭を下げた。

裕也は軽く手を上げ、後部座席へ乗り込む。

バタン。

扉が閉まった。

「大河、出してくれ」

「はい!」

車はゆっくりと走り出した。

窓の外では、北竜会の男がまだ頭を下げている。

やがてその姿も、賑やかな横浜の夜景に紛れて見えなくなった。