虚無に咲く華

十一月下旬、横浜。

冬の訪れを間近に控え、夜の冷え込みが一段と厳しくなっていた。

繁華街には色とりどりのネオンが輝き、行き交う人々はコートの襟を立て、足早に通り過ぎていく。

そんな街の一角にある料亭では、各地のヤクザ組織が集まる定例会が開かれていた。

広い座敷には料理が並び、酒の入ったグラスがあちこちで持ち上がる。

「いやぁ、景気の悪い話ばっかりですなぁ」

「まったくですわ。最近は何をするにも世間の目が厳しい」

笑い声が上がる。

だが、誰もが腹の内まで笑っているわけではない。

くだらない世間話を肴に酒を酌み交わしながら、互いの動向を探り合う。

雷成会の裕也も、その席に顔を出していた。

黒いスーツに身を包み、片手にグラスを持ちながら、周囲の会話に適当に相槌を打つ。

「裕也さん、もう一杯どうです?」

「いや、もういいわ。明日も早ぇんだ」

軽く手を上げ、勧められた酒を断った。

それにしても、今日は妙に出入りが激しい。

裕也はグラスを置き、座敷の出入口へ目を向けた。

北竜会の若い衆が、何度も廊下を行き来している。

誰かに呼び止められても、短く頭を下げるだけで足早に立ち去っていく。

(ずいぶん忙しそうじゃねぇか)

横浜を本拠地とする北竜会にとって、各組織の幹部が集まる今夜は気の抜けない一日なのだろう。

万が一にも揉め事が起きれば、面倒を背負うのは地元の組織だ。

警戒が厳しくなるのも無理はない。

裕也は時計に目を落とした。

「さて、俺はそろそろ失礼するわ」

周囲に軽く挨拶を済ませ、席を立った。