君と俺とあの猫と

玄関のドアが開いた。美雪さんが帰ってきたのだ。探しに行ったはずの白猫はいない。美雪さん一人だけだった。俺は駆け寄って

「おかえりなさい。」
と言った。

「ただいま。」
と彼女は自然に言った。

猫が急に言葉を話したというのに美雪さんはちっとも驚いていない。普通に人間と話すときと同じ様な感じだ。あの自称神様が言っていた美雪さんは飼い猫と話すことができるという話は本当だったんだな。そうでないと驚くはずだ。
美雪さんは部屋に入ると

「疲れた。」
と呟いて鞄を置くと床に座り込んだ。
視線のさきにはクローゼットがある。

「あれ。なくなってる?」
開けっぱなしのクローゼットの中にある空になった容器をまじまじと見つめて独り言のようにそう言った。

しまった。ばれた。俺が食べたやつだ。まあ隠す気もないのだが。
俺は謝罪しようとしたら

「もしかして帰ってきたのかな。」
と美雪さんは言った。白猫が帰ってきてキャットフードを食べたんではないかと思ったのかもしれないが、そんなことはありえない。ドアも窓も閉め切っており外から猫が入ることができるのは不可能な状況だったからだ。おそらく帰ってきて欲しいという願望であのキャットフードを置いていたのだろう。その願望が美雪さんにそう口走らせたのだろうな。
俺は
「実は俺が食べたんです。朝から何も食べて無くてお腹がすいていたので。すみませんでした。」
と素直に謝罪した。

美雪さんは
「あなたが食べたんだね。そうだよね。窓も閉め切っていたし、ベランダから入ることできないし帰ってきて入ってくるなんてできないもんね。お腹がすいていたのならしかたないよ。気にしないで。」
と言って俺の頭を撫でた。

よかった。怒られなくて。美雪さんは優しいから許してくれるとは思っていたけれども。
キャットフードの件が終わると俺はそろそろ本題に入ることにした。

「ところで、白猫はまだ見つからないんですか。」

「え、なんでそのこと知ってるの?」
と美雪さんはびっくりして俺を見つめた。

自称神様から教えてもらったことを素直に話そうと思ったがそれをそのまま話すと頭がおかしいと思われないか不安だった。急に神様がなんて言い出したら胡散臭いだろ。俺まで胡散臭いと思われてあの自称神様と同じカテゴリーに入るのが嫌だったので神様の件は話さないことにした。

「部屋に白猫の写真があったり、キャットフードがあったりで猫を飼っている形跡があるのに猫がいないのはおかしい気がして、もしかしたらその白猫を探しに出かけたのかなと思いまして。」

「鋭いね。そうなのよ。その白猫をさっき友達と探してたんだ。でも見つからなかったの。」
と残念そうに美雪さんは言った。

友達って言ったな。今。てことは電話のあの男は恋人ではなかったのか。よかった、よかった。めでたし、めでたしと言いたいとこだが、まだミッションをクリアしていない。気を抜くな俺。
そのこうちゃんと呼ばれていた男が友達ということなら、俺は人間の姿に戻ったら美雪さんに告白してもいいということなんだな?俄然やる気が湧いてきた。俺は絶対にミッションをクリアして人間の姿に戻ってやるぞ。おりゃー。なんでもかかってこんか。

「俺その猫を見つけ出して見せます!任せてください。同じ猫だから人間が探すよりかは探しやすいはずです。」
俺は元人間なのだが説得力を持たせるためにあえてこのような言い方をした。あとで後悔しないといいが。

「確かに猫同士だから、分かる部分もあるかもね。じゃあ。任せようかな。」

よっしゃあ。ここまでは順調な流れで来てるぞ。

「さっそく今から探しに行きたいのですが、いなくなった経緯など詳しくきかせてくれませんか。」

「今から?ありがとう。経緯ね。私がベランダに洗濯物を干している時に窓を開けていてそのすきに出ていちゃって。」

「そうなんですね。何かその白猫が行きそうな場所の心当たりとかありますか?あと白猫の名前は?」
「行きそうな心当たりは特になくて。名前はミケちゃんっていうの。」

美雪さんには心当たりがないのか。俺は1つ心当たりがある。おそらく美雪さんが知らなくて俺だけが知っているあの場所だ。まずそこに向かうとするか。

「ありがとうございまます。俺さっそく今から行ってきます。」
と言って出かけようとすると美雪さんが俺を呼び止めて

「これをつけて。」
と言って首輪をつけられ、小さな鞄を首にかけられた。

「首輪にはGPSがついてる。道に分からなくなって帰れなくなったら私迎えに行くからね。あとその鞄に写真入れて持って行って。探す時に役に立つでしょ。」
と言って俺の首にさげている鞄にミケちゃんの写真を入れた。

俺は1つ聞き忘れていた。美雪さんの家からあの場所への行き方だ。俺は美雪さんに場所を伝えて、代わりにスマホの地図で調べてもらった。行き方を俺はその場で暗記した。俺は記憶力には自信がある。それは猫になっても健在だった。
よしこれで準備は万端だ。

「行ってきます。」

「いってらっしゃい。気をつけて。無事に帰ってくるのよ。」
と美雪さんが俺を送り出してくれた。

俺は猫自身なのに行方不明の猫を探す風変わりな名探偵になるのだ。