君と俺とあの猫と

美雪さんの家に着いた。美雪さんの家は整理整頓されており、掃除も隅々まで行き届いているようで綺麗だった。俺の散らかった家とは大違いだ。さすが美雪さん、俺の惚れた女性だけある。美雪さんは抱えていた俺をおろすと洗濯物を取りに行こうとベランダに出ようとしたが美雪さんのスマホが鳴った。

「もしもし。こうちゃん。あの件の話?まだ見つからないの。」
俺は美雪さんのそばで耳を澄ませてきいていた。どうやらこうちゃんと呼ばれている電話相手は男らしい。もしかして彼氏なんじゃ?俺の知らない間に彼氏がいたなんてショック。まだ彼氏と決まった訳ではないがその可能性は高そうだ。俺の野生の勘がこの男は彼氏だとずっと頭の中でサイレンを鳴らしている。にしても美雪さんが見つからないと言ったのはいったい何の話なのか。美雪さんはこうちゃんと話すうちに涙を流し始めてこう言った。

「もう二度と会えないのかなあ。帰ってこないのかなあ。何かあったんじゃ。」
美雪さんの涙の量はやがて増えていき話すのもやっとになってきた。
美雪さんが泣いている姿を見ると俺は心が痛くなってきた。何か美雪さんにしてやれることはないのだろうか。でも俺は猫の体だ。やれることは限られている。猫として彼女を癒やしてあげることしかできない。こんなに近くにいるのに何もできない自分が不甲斐なかった。
「え、私と一緒に探してくれるの。今から?うん。私特にこの後予定ないし。そっちに行くね。」
美雪さんはティッシュで涙を拭きながら電話を切った。

どうやらこうちゃんと行方不明の何かを探しに行くことに決まったらしい。美雪さんはベランダの洗濯物を放置したままで鞄を肩にかけると玄関に向かった。
ドアを開ける前に振り返り俺に

「私出かけることになっちゃったからお利口さんにお留守番しててね。帰りもしかして遅くなるかもだけど。大人しくしてるのよ」
と言って俺の頭を撫でると家を出て行った。

美雪さんの家で一人になってしまった。さてどうして過ごそうか。せっかく好きな人の部屋にいるのだし色々見て美雪さんのことをもっと知りたいと思った。普段俺は美雪さんが会社で働いている姿しか知らず、プライベートな部分はほぼ知らないからだ。とりあえず適当に歩いてみる。するとタンスの上に写真が飾られているのが見えた。見覚えのある白猫の写真だった。あれもしかして居酒屋の近くで見たあの白猫なんじゃ?と思ったが気のせいかもしれない。白猫なんて珍しくはないし、たまたまかもしれない。猫好きな美雪さんはこの白猫を飼っているのだろうか。もしそうならどうして部屋にいないんだ。俺は違和感を覚えた。隠れているのか。俺は写真の白猫を部屋の隅々まで探した。タンスの下やすき間など、いかにも猫が好みそうなところも探したのだが見当たらない。

もしかしてもうこの白猫は亡くなっているんじゃ。もしそれだとしたらこの白猫は俺が居酒屋の近くで見た白猫とは違う白猫だったということになる。なんだ俺の勘違いじゃん。でも待てよ。美雪さんがさっき涙を流していたのはこの白猫が出て行ったからとは考えられないか。そうだと猫がいないことにも美雪さんが泣いていたことも辻褄が合うことになる。じゃあ、行方不明の猫を探しに美雪さんは出かけたということなのか。あくまでこれはすべて俺の仮説なのだけど。考えを巡らせているとお腹がすいてきた。そういえば俺は朝からご飯を食べていない。でも今美雪さんがいないし、猫の体じゃ自分ではご飯を用意できない。

どうしよう。美雪さんが帰ってくるまで待てそうにないので部屋に食べるものを探した。猫を飼っていたことがあるならキャットフードがあるはず。目星がありそうなのはないか。俺の目にとまったのは開けっぱなしのクローゼットだった。几帳面な美雪さんがクローゼットを開けっぱなしにしているなんて違和感がある。何か意味がある気がした。クローゼットにもしや白猫が隠れているのでは?キャットフードがあるのでは?と思った俺はクローゼットの中を覗いた。ビンゴだ。
2段に分けられたクローゼットの下の方に容器に入ったキャットフードがあった。白猫の姿はなかった。おそらく白猫のためにおかれていたものだろう。白猫の飯を横取りするみたいで申し訳ないがこのまま美雪さんが帰ってくるまで飯を我慢していては餓死してしまいそうなくらい辛かったので食べることにした。キャットフードをたいらげると急に眠くなってきた。美雪さんが帰ってくるまでまだ時間あると思うし寝ることにするか。俺は目を閉じた。