「天谷つばささん!」
「はいっ!!」
名前を呼ばれた瞬間、わたしは勢いよく立ち上がった。
今日は、待ちに待った日!
注文していた裁縫セットが、ついに学校に届いたのだ!
教室の前まで小走りで向かうと、先生がわたしの裁縫セットを差し出してくれた。
(本当に……わたしのだ!)
パステルカラーのケース。
キラキラした星と、かわいいユニコーン。
傷ひとつない、わたしだけの裁縫セット。
わたしは両手で、しっかりと受け取った。
落とさないように。
軽いのに、なんだか重く感じた。
「ありがとうございますっ!」
席に戻ると、さっそく机の上に置いた。
(えへへ……!)
うれしい。
うれしい、うれしい!
「みんな、中身がちゃんと揃っているか確認してねー!」
先生がそう言ったときには、わたしはもうケースを開けていた。
「わああ……!」
中には、見たことのない道具がいっぱい!
わたしはプリントと見比べながら、ひとつひとつ確認していく。
(えっと……これが、裁ちばさみでしょ?)
大きなはさみを、そっと持ち上げる。
(こっちが糸切りばさみ。それから……)
小さな針が並んだケース。
色とりどりの糸。
それに、針を刺しておくための、かわいい針山!
(わああ……! なんだか本物のお裁縫屋さんみたい!)
胸の奥から、ワクワクが止まらない。
これで、わたしもかわいいものを作れるんだ!
フリフリのスカートに、大きなリボン。
それから、それから……!
「……天谷さん」
「ん?」
顔を上げると、隣の席の西条ゆかりさんが、こちらを見ていた。
「……それ、糸切りばさみ」
「えっ?」
「……裁ちばさみは、こっち」
「ええっ!? そうなの!?」
わたしは慌てて、道具の名前が書かれたプリントを見直した。
……ほんとだ。
「あはは……間違えちゃった!」
「……うん」
西条さんは小さくうなずくと、自分の裁縫道具を机に並べ始めた。
わたしのとは違う、使い込まれた道具たち。
大きな裁ちばさみも、ちょっと古そう。
「ねえ、西条さん。そのはさみ、前から使ってるの?」
「……うん」
「へえー! すごいね!」
「……おじいちゃんにもらったの」
「おじいちゃん!?」
「……うん」
そう答えた西条さんは、はさみをそっと机に置いた。
なんだか、とっても大切そうに。
(ふうん……)
わたしはもう一度、自分の裁縫セットに目を落とした。
ピカピカの、新しい道具たち。
(よーし!)
わたしだって、これからいっぱい使うんだから!
そして、いつか。
世界でいちばんかわいいお洋服を、作ってみせるんだ!
……なーんて。
このときのわたしは、そんなことを考えていた。
まさか、このあと。
たった一本の針に、あんなに苦戦することになるなんて。
夢にも思っていなかったのだった。
