(これ……かわいい! 絶対にこの裁縫セットにする!)
授業が終わったばかりの教室。
担任の先生から配られた一枚のプリントを見て、わたしは思わず目を輝かせた。
そこに載っていたのは、何種類もの裁縫セットの見本だった。
その中のひとつに、わたし――天谷つばさは、すっかり心を奪われていた。
パステルカラーのケースに、星やユニコーンのイラストが描かれた、とびきりかわいい裁縫セット!
(うわあ……! これ、すっごくかわいい!)
わたしはおしゃれが大好き!
かわいい洋服や小物を見ると、ついつい目で追いかけちゃう。
そんなわたしにとって、この裁縫セットはまさに一目ぼれだった。
「みんな、プリントは行き渡ったかな?」
先生の声に、教室が少し静かになる。
「二学期から家庭科で裁縫の授業が始まります。おうちの人と相談して、好きな裁縫セットを選んでくださいね」
「はーい!」
クラスのみんなが元気よく返事をした。
先生の話が終わると、教室のあちこちから楽しそうな声が聞こえてきた。
「裁縫とかめんどくさそうだけど、このドラゴンかっけーな!」
「わたし、こっちの大人っぽいシンプルなのにしようかな!」
「ねえねえ、これもかわいくない?」
みんな、プリントを見ながら盛り上がっている。
もちろん、わたしもその一人!
(早くほしいなあ……!)
ユニコーンの裁縫セットを使っている自分を想像するだけで、なんだかワクワクしてきた。
そうだ!
せっかく裁縫セットを買ってもらうんだもん。
かわいい洋服だって、自分で作れるようになっちゃうかもしれない!
(フリフリのスカートとか、リボンがいっぱいついたワンピースとか……!)
頭の中に、次々とかわいい洋服が浮かんでくる。
うんうん!
なんだか、すっごく楽しそう!
「ねえ、西条さん!」
わたしは隣の席に座っている女の子に声をかけた。
西条ゆかりさん。
長い黒髪がきれいな、ちょっと大人っぽい女の子だ。
いつも静かに本を読んでいて、あまり自分から話しかけてくることはない。
「……なに?」
「西条さんは、どの裁縫セットにするの?」
わたしはプリントを広げて見せた。
「わたしはね、このユニコーンのやつ! すっごくかわいくない?」
「……うん」
「でしょでしょ! 西条さんは?」
「……わたしは買わない」
「えっ!?」
思わず大きな声が出てしまった。
「か、買わないの!?」
「……うん。もう持ってるから」
「ええっ!? 裁縫セットを!?」
「……そうだけど」
「なんでなんで!?」
西条さんは、少しだけ首をかしげた。
「……家で使ってるから」
「へええ……!」
裁縫セットって、学校の授業で使うものじゃないの?
家でも使っているなんて、ちょっと不思議。
「……それじゃ」
西条さんはそう言うと、また読みかけの本に目を戻した。
(……なんだか、変わった子)
わたしは首をかしげながら、もう一度プリントに目を落とす。
でも、そんなことはすぐに頭から消えてしまった。
(やっぱり、これが一番かわいい!)
パステルカラーのユニコーン。
キラキラした星の模様。
何度見ても、かわいすぎる!
わたしはプリントを大切に折りたたむと、ランドセルの中にしまった。
(帰ったら、すぐにお母さんに見せようっと!)
絶対に、この裁縫セットを買ってもらうんだから!
放課後。
校門を飛び出したわたしは、いつもより少しだけ早足で家へと向かった。
春の風はまだ少し肌寒かったけれど……。
わたしの心は、燃えるように熱かった。
