──桜庭の姿が、人混みの奥へと消えていく。
それを見届けた瞬間。
俺は持っていたネイビーの傘を深く下ろし、大きく天を仰いだ。
「はあっ……」
胸の奥に溜まっていた熱い息を、吐き出すように深くため息をつく。
そのまま、左手で自分の顔を覆う。
「……死ぬかと思った」
心臓が、耳の奥でうるさいくらいにドクドクと脈打っている。
傘の柄を握る右手が、自分のものじゃないみたいに微かに震えていた。
なんなんだよ、あいつ……。
今さっきまで、自分の腕の中に収まっていた桜庭の小さくて柔らかい体の感触が、まだ消えずに残っている。

