東京ドームシティの遊園地チケット売り場はショップを上がった2階?テラス?陸橋?、名称はわかりませんが、とにかく上の階の広いスペースの真ん中にありました。
平日とあって、チケット売り場に並んでいる人はいなくて、すぐに順番が回ってきます。
石垣さんは売り場担当の女性に愛想よく、「ワンディパスポート、大人二枚ください」と話しかけました。
私はなんとなく彼の顔から目をそらして、東京ドームの方を向いてしまいます。
久しぶりの東京ドーム。
最後に来たのは三年前の、アニソン歌手のライブ以来です。
それ以前にもお母さんとスパに行きましたし、学生時代には友達とアトラクションズで遊んだこともあります。
ただ、男性と来たのは今日が初めて。
高校時代、好意を持ってくれた男子にアトラクションズに誘われたことはあるんですが、男の子と二人きりなのが怖くて断ってしまいました。
人混みも苦手だし、男の子と二人きりなのはなにかありそうで怖い。
思春期だったこともあって警戒心が強かったと思います。
32歳になった今では男女の営みが怖いものではないとわかっていますからか、男性と二人きりでも怖くはありません。
特に彼は人畜無害の良い人なので、きっと穏やかに過ごせるでしょう。
ただ、なんだか心がモヤモヤしています。
さっき、彼は言いました。
「熱意を持ってなにかに取り組む人のことを俺は尊敬しています。この前、あなたが日比谷で推しのことを語った情熱は他の誰よりも強い思いを感じました。俺はその熱意に惚れています」
その言葉は告白にも思えますけど、でも、私のことを好きだと、はっきりと言ったわけではない気がします。
さっきの言葉は、要するに私の性格が気に入ったということでしょ?
でも、それ以外は?
容姿は?服装は?考え方は?趣味は?
私のそれらをあなたは気に入ったの?好きなの?どうなの?
その点がはっきりしないので、なんだかすごくモヤモヤするのです。
あなたは本当に私のことが好きなの?
どこが好きなの?
そう問い詰めたくて仕方ありません。
ただ、今は問い詰める時ではないのでしょう。
婚活やマッチングアプリで会うことが、イコール 「好き!」と限らないことはわかっています。
こうして会っているのはお互いに好きになる一歩を踏み出しただけ。
お互いに本当に好きになるのはこれからよ。
そう考えているんですが、 「本当のところはどうなの!」って問い詰めたくなる気持ちがあるのも事実。
なんだかもどかしいのです。
でも、私の手を引いてくれる彼の横顔を見ると、やっぱりドキドキしてしまう……。
(あんなに真剣な目で『君がいい』って言ってくれたんだもん……自信を持たなきゃ)
前を向こうと思っているのに、心の中に引っかかりがあって前向きになりきれません。
そんなモヤモヤした気持ちが顔に出ていたのでしょう。
チケットを買った石垣さんが怪訝そうに私の顔を覗き込みます。
「どうしました?難しい顔をしていますね」
一瞬、 「あなたのせいよ」と言ってしまいそうになりましたが、私はつくろって笑い返します。
「いえ、アトラクションズは久しぶりだなって思っていました」
彼は素直な人のようで、私の言葉に疑問も抱かずに頷いています。
「へえ、そうなんですね。久しぶりということは、ここもけっこう変わったんでしょうね」
「ええ。前は二階の奥の方にお化け屋敷があったんですけど、今はラクーアの一階にあります。空いたスペースに新しいアトラクションができているみたいですね。あとで見てみましょう」
「あとで?」
首をかしげる彼に私は笑いかけます。
「最初は人気のアトラクションを一気に回りましょうよ。サンダードルフィンとバックダーンは必ず乗りたいですね!お化け屋敷も気になりますが、なんといってもジェットコースターですよ。絶叫系は久しぶりです!」
見上げるとラクーアの壁に穴があって、そこをジェットコースターがとんでもない速度で駆け抜けていました。
時速130キロという速度が売りのジェットコースター、サンダードルフィンです。
ゴゴゴー!という大地を揺らすような地響きに似た音が聞こえたと思うと、女性の甲高い絶叫が聞こえます。
キャアアアア!
その声を聞くと、思わず心がウキウキと弾むのです。
絶叫系は大好きなので。
私がサンダードルフィンを見上げていると、彼は笑いながら頷きました。
「いいですね。でも、その前にあれを乗りませんか?」
「あれ?」
そう言うと彼は上空を指さします。
「あれです。観覧車。すごく景色が良さそうじゃないですか?」
彼が指さしたのは名物の観覧車、ビックオー。
都心にある観覧車で、80メートルの大パノラマからは皇居や新宿の景色、さらに東京のランドマークの東京タワーやスカイツリーが一望できる人気アトラクションです。
しかも、カラオケができるという謎の機能付き。
私はカラオケが大好きなのでその機能は嬉しいのですが、それ以外は魅力を感じません。
というか、ゾッとします。
「ええっと、石垣さん。観覧車、好きなんですか?」
恐る恐るそう聞くと彼は無邪気に笑いながら言いました。
「乗ったことがありません。仕事で施設のそばの大通りをよく通るんですが、大きくて景色良さそうだなと毎回見上げてたんですよ」
ニコニコと語る石垣さん。
初めての観覧車に期待しているのかもしれません。
私は血の気が引く思いをしながらも、深刻に受け止められないように明るく言いました。
「私、高所と閉所が苦手なんですよね。でも、ビックオーはカラオケができるから楽しいかも?夜ならなんとか乗れますよ」
そう答えるのが精一杯でした。
本当は絶対に乗りたくないんですけど、これまで石垣さんには散々わがままを言ってきました。
人混みが嫌、食事は嫌、お酒の場なんて到底ムリ。
デートの場所も行ける場所が少なく、 「遊園地なら、なんとか行けるかも」という私の意見を採用されて東京ドームシティに遊びに来たという経緯があります。
せっかく私に合わせてくれているのに、否定することばかり言ったら申し訳ないです。
普通の男性ならイライラしてもおかしくないのに、石垣さんは本当に優しい。
彼はにっこり笑いながら答えます。
「そうだったんですね。無理をすることはありませんよ。他にもたくさんアトラクションはあります。まずは人気のアトラクションから回って、余力があれば観覧者に乗りましょう!」
ああ、気を使われてしまった。
本当はきっと観覧車に乗ってみたいはずなのに、後回しにしてしまって申し訳なく思います。
それでも苦手なものは苦手。
しょうがないんです。
気を悪くされていないといいなと思いつつ、私はチケット売り場にあった施設案内図を広げて指でなぞります。
「目玉のジェットコースターは両端に分かれてあるんですよ。屋内コースターが南側、地上コースターが北側。どっちかに乗って、それから乗っていないコースターを目指して進みつつ、乗りたいものがあったら乗っていくというのが効率がいいですね」
「ジェットコスターですか。久しぶりです」
そう言うと彼は北側のラクーアの上空を見つめました。
そこにあるのはさっき私が見ていた超高速のジェットコースター、サンダードルフィン。
まるで道路に飛び出すようにひねりを加えながら、急角度で建物の隙間をすり抜けていくモンスターコースター。
黄色い悲鳴が聞こえるたびに私の胸はキュンキュンとときめくのですが、彼は引きつった笑みを漏らします。
「久しぶりのジェットコースターで、いきなりあれに乗ると心臓がびっくりしそうだね」
ジェットコースターを見上げる彼の頬に汗が伝います。
おや。おやおやおやおや。
私は顔がニヤけるのを抑えられません。
先日会った時はジェントルマン。
さっきは堂々と告白できた彼がジェットコースターを前に怯えているではありませんか。
完璧で神と崇めている彼が、絶叫系を前に怯えていらっしゃる!
私は笑いをこらえながら彼に聞きました。
「もしかして、絶叫系は苦手ですか?」
クスクスと笑いながら問いかけると、彼は必死に強がってみせた。
「なにをおっしゃる。首都高を華麗に快走する俺ですよ? ジェットコースターくらい余裕——」
だが、目の前を轟音とともに猛スピードで駆け抜けていくサンダードルフィンを目撃した瞬間、彼の言葉がピタリと止まりました。
青ざめた頬に、タラリと冷や汗が伝っています。
(ふふふ……、普段があんなに頼もしいのに、こんな可愛い弱点があったなんて!)
「さあ、行きましょうか、石垣さん!」
私はワクワクを抑えきれず、怯える彼の手をギュッと掴んで、アトラクションの入り口へと力強く引っ張っていきます。
「ちょ、ともえさん、待って、心の準備が……!」
焦る彼の声なんて聞こえないふりをして、私は最高潮に高鳴る胸を抑えながら、初めての絶叫デートへと足を踏み入れたのでした。
平日とあって、チケット売り場に並んでいる人はいなくて、すぐに順番が回ってきます。
石垣さんは売り場担当の女性に愛想よく、「ワンディパスポート、大人二枚ください」と話しかけました。
私はなんとなく彼の顔から目をそらして、東京ドームの方を向いてしまいます。
久しぶりの東京ドーム。
最後に来たのは三年前の、アニソン歌手のライブ以来です。
それ以前にもお母さんとスパに行きましたし、学生時代には友達とアトラクションズで遊んだこともあります。
ただ、男性と来たのは今日が初めて。
高校時代、好意を持ってくれた男子にアトラクションズに誘われたことはあるんですが、男の子と二人きりなのが怖くて断ってしまいました。
人混みも苦手だし、男の子と二人きりなのはなにかありそうで怖い。
思春期だったこともあって警戒心が強かったと思います。
32歳になった今では男女の営みが怖いものではないとわかっていますからか、男性と二人きりでも怖くはありません。
特に彼は人畜無害の良い人なので、きっと穏やかに過ごせるでしょう。
ただ、なんだか心がモヤモヤしています。
さっき、彼は言いました。
「熱意を持ってなにかに取り組む人のことを俺は尊敬しています。この前、あなたが日比谷で推しのことを語った情熱は他の誰よりも強い思いを感じました。俺はその熱意に惚れています」
その言葉は告白にも思えますけど、でも、私のことを好きだと、はっきりと言ったわけではない気がします。
さっきの言葉は、要するに私の性格が気に入ったということでしょ?
でも、それ以外は?
容姿は?服装は?考え方は?趣味は?
私のそれらをあなたは気に入ったの?好きなの?どうなの?
その点がはっきりしないので、なんだかすごくモヤモヤするのです。
あなたは本当に私のことが好きなの?
どこが好きなの?
そう問い詰めたくて仕方ありません。
ただ、今は問い詰める時ではないのでしょう。
婚活やマッチングアプリで会うことが、イコール 「好き!」と限らないことはわかっています。
こうして会っているのはお互いに好きになる一歩を踏み出しただけ。
お互いに本当に好きになるのはこれからよ。
そう考えているんですが、 「本当のところはどうなの!」って問い詰めたくなる気持ちがあるのも事実。
なんだかもどかしいのです。
でも、私の手を引いてくれる彼の横顔を見ると、やっぱりドキドキしてしまう……。
(あんなに真剣な目で『君がいい』って言ってくれたんだもん……自信を持たなきゃ)
前を向こうと思っているのに、心の中に引っかかりがあって前向きになりきれません。
そんなモヤモヤした気持ちが顔に出ていたのでしょう。
チケットを買った石垣さんが怪訝そうに私の顔を覗き込みます。
「どうしました?難しい顔をしていますね」
一瞬、 「あなたのせいよ」と言ってしまいそうになりましたが、私はつくろって笑い返します。
「いえ、アトラクションズは久しぶりだなって思っていました」
彼は素直な人のようで、私の言葉に疑問も抱かずに頷いています。
「へえ、そうなんですね。久しぶりということは、ここもけっこう変わったんでしょうね」
「ええ。前は二階の奥の方にお化け屋敷があったんですけど、今はラクーアの一階にあります。空いたスペースに新しいアトラクションができているみたいですね。あとで見てみましょう」
「あとで?」
首をかしげる彼に私は笑いかけます。
「最初は人気のアトラクションを一気に回りましょうよ。サンダードルフィンとバックダーンは必ず乗りたいですね!お化け屋敷も気になりますが、なんといってもジェットコースターですよ。絶叫系は久しぶりです!」
見上げるとラクーアの壁に穴があって、そこをジェットコースターがとんでもない速度で駆け抜けていました。
時速130キロという速度が売りのジェットコースター、サンダードルフィンです。
ゴゴゴー!という大地を揺らすような地響きに似た音が聞こえたと思うと、女性の甲高い絶叫が聞こえます。
キャアアアア!
その声を聞くと、思わず心がウキウキと弾むのです。
絶叫系は大好きなので。
私がサンダードルフィンを見上げていると、彼は笑いながら頷きました。
「いいですね。でも、その前にあれを乗りませんか?」
「あれ?」
そう言うと彼は上空を指さします。
「あれです。観覧車。すごく景色が良さそうじゃないですか?」
彼が指さしたのは名物の観覧車、ビックオー。
都心にある観覧車で、80メートルの大パノラマからは皇居や新宿の景色、さらに東京のランドマークの東京タワーやスカイツリーが一望できる人気アトラクションです。
しかも、カラオケができるという謎の機能付き。
私はカラオケが大好きなのでその機能は嬉しいのですが、それ以外は魅力を感じません。
というか、ゾッとします。
「ええっと、石垣さん。観覧車、好きなんですか?」
恐る恐るそう聞くと彼は無邪気に笑いながら言いました。
「乗ったことがありません。仕事で施設のそばの大通りをよく通るんですが、大きくて景色良さそうだなと毎回見上げてたんですよ」
ニコニコと語る石垣さん。
初めての観覧車に期待しているのかもしれません。
私は血の気が引く思いをしながらも、深刻に受け止められないように明るく言いました。
「私、高所と閉所が苦手なんですよね。でも、ビックオーはカラオケができるから楽しいかも?夜ならなんとか乗れますよ」
そう答えるのが精一杯でした。
本当は絶対に乗りたくないんですけど、これまで石垣さんには散々わがままを言ってきました。
人混みが嫌、食事は嫌、お酒の場なんて到底ムリ。
デートの場所も行ける場所が少なく、 「遊園地なら、なんとか行けるかも」という私の意見を採用されて東京ドームシティに遊びに来たという経緯があります。
せっかく私に合わせてくれているのに、否定することばかり言ったら申し訳ないです。
普通の男性ならイライラしてもおかしくないのに、石垣さんは本当に優しい。
彼はにっこり笑いながら答えます。
「そうだったんですね。無理をすることはありませんよ。他にもたくさんアトラクションはあります。まずは人気のアトラクションから回って、余力があれば観覧者に乗りましょう!」
ああ、気を使われてしまった。
本当はきっと観覧車に乗ってみたいはずなのに、後回しにしてしまって申し訳なく思います。
それでも苦手なものは苦手。
しょうがないんです。
気を悪くされていないといいなと思いつつ、私はチケット売り場にあった施設案内図を広げて指でなぞります。
「目玉のジェットコースターは両端に分かれてあるんですよ。屋内コースターが南側、地上コースターが北側。どっちかに乗って、それから乗っていないコースターを目指して進みつつ、乗りたいものがあったら乗っていくというのが効率がいいですね」
「ジェットコスターですか。久しぶりです」
そう言うと彼は北側のラクーアの上空を見つめました。
そこにあるのはさっき私が見ていた超高速のジェットコースター、サンダードルフィン。
まるで道路に飛び出すようにひねりを加えながら、急角度で建物の隙間をすり抜けていくモンスターコースター。
黄色い悲鳴が聞こえるたびに私の胸はキュンキュンとときめくのですが、彼は引きつった笑みを漏らします。
「久しぶりのジェットコースターで、いきなりあれに乗ると心臓がびっくりしそうだね」
ジェットコースターを見上げる彼の頬に汗が伝います。
おや。おやおやおやおや。
私は顔がニヤけるのを抑えられません。
先日会った時はジェントルマン。
さっきは堂々と告白できた彼がジェットコースターを前に怯えているではありませんか。
完璧で神と崇めている彼が、絶叫系を前に怯えていらっしゃる!
私は笑いをこらえながら彼に聞きました。
「もしかして、絶叫系は苦手ですか?」
クスクスと笑いながら問いかけると、彼は必死に強がってみせた。
「なにをおっしゃる。首都高を華麗に快走する俺ですよ? ジェットコースターくらい余裕——」
だが、目の前を轟音とともに猛スピードで駆け抜けていくサンダードルフィンを目撃した瞬間、彼の言葉がピタリと止まりました。
青ざめた頬に、タラリと冷や汗が伝っています。
(ふふふ……、普段があんなに頼もしいのに、こんな可愛い弱点があったなんて!)
「さあ、行きましょうか、石垣さん!」
私はワクワクを抑えきれず、怯える彼の手をギュッと掴んで、アトラクションの入り口へと力強く引っ張っていきます。
「ちょ、ともえさん、待って、心の準備が……!」
焦る彼の声なんて聞こえないふりをして、私は最高潮に高鳴る胸を抑えながら、初めての絶叫デートへと足を踏み入れたのでした。
