ジェットコースター、サンダードルフィンは鉄塔のような階段を上がった先にあります。
カツーン、カツーンと鉄の階段を登っていますと、水道橋周辺の景色が一望できるくらいの高さに到達しました。
高層ビルばかりで、あまり良い景観とまではいえません。
普段の私なら高所恐怖症が出て震えて歩けなくなることでしょう。
しかし、今の私はウキウキ。
楽しい楽しいジェットコースターが待っているんです。
ジェットコースターを前にしたら高いところなんて平気、平気。
ルンルンな私と比べて、石垣さんは非常に足が重たい様子。
彼はひざに手をつく勢いで俯きながら階段をゆっくりと歩いています。
私は少し不安になって話しかけてみました。
「どうしました?高いところ、怖いんですか?」
すると彼は気丈に笑いました。
「いえ、そんなことはないですよ。仕事柄、座りっぱなしなので階段が疲れるだけです」
そう言う彼の膝が少しプルプル震えています。
これはきっとジェットコースターに対する恐怖が膝にきているのでしょう。
石垣さんは恐怖と階段の疲労で 「はあはあ」と呼吸を荒げています。
どんどん歩くペースが遅くなる彼を私は励ましました。
「さあ、石垣さん。頑張って!130キロの猛スピードがあなたを待ってますよ!」
「はは、そうだね。楽勝だよ」
おやおや。
余裕がなくなって、言葉遣い変わってきました。
これが素が出たということでしょうか。
隠されていた本性が明るみになることも恋愛の醍醐味。
もっともっと、彼の本性を見たいと私の心が叫んでいます。
「さあ、あともう少しですよ。楽しみですね!」
「ああ、そうだね」
彼が悲鳴を上げながら受け答えしている間に、ようやく受付がある階にたどり着きました。
広いスペースに、行列を仕切る長いロープが貼られています。
きっと休日はこの階に人がすし詰めになるのでしょう。
しかし、今日は平日。
並んでいるのは十人程度なので、一巡したら順番が巡ってくるはず。
こんなに空いているなんて嬉しすぎます。
「石垣さん!すぐに順番は回ってきますよ。並びましょう!」
しかし、石垣さんからの返事はありません。
振り返って彼の顔を見ると、青ざめた顔で備え付けられたモニターを見ました。
モニターにはジェットコースターの説明アナウンスと、注意事項が流れていました。
「80度の急降下と、最高速度127キロの超加速を体験できます」
「メガネや小物が落ちる危険があります。すべてロッカーに預けてください」
「万が一、物が落ちたら保証はできませんし、損害賠償の可能性があります」
私にしてみたら、 「ふーん」くらいの内容なのですが、彼にとっては驚愕の説明だったようです。
「メガネが吹っ飛ぶのか?ポケットを空にしないとまずいくらいすごいのか?というか、損害賠償?」
なにかブツブツ言っています。
私は彼の手を引っ張りました。
「よくある定型文じゃないですか。さあ、乗りますよ」
「あ、うん」
私は顔面蒼白の彼を引っ張って受付を行います。
体に不調がないかなどのありきたりの説明を受け、そしてロッカーの鍵を受け取って荷物をすべてロッカーに突っ込みました。
「石垣さん。ポケットの中、大丈夫ですか?」
「ああ。空にしたよ」
「じゃあ、大丈夫ですね!」
「損害賠償」
「なにも持っていないんだから、何も起きませんってば!」
時間稼ぎをする彼を引っ張って、私たちは乗り場に着きました。
そこではすでに前の順番の人たちがコースターに乗り込んだばかり。
安全バーもしっかり下りていて、乗った人は今か今かとワクワクしている状況です。
「石垣さん!出発しますよ!次ですね。順番早くてラッキー」
「ああ、そうだね」
彼が生返事をしたところ、出発の合図が鳴ります。
その合図と共に、係員の方が満面の笑みで手を振りました。
「いってらっしゃい!」
すると、コースターは音を立てながら早い速度で出発したのです。
ゴーと唸るような音と共に、スーと流れるように進むコースター。
それを見て、私は 「あれ?」と首を捻ります。
(あれ?こんなに初速、早かったっけ?)
石垣さんも同じことを思ったようで、驚いた様子でコースターを凝視しています。
「ジェットコースターって、カタカタとゆっくり上がっていくんじゃないのか?なんだ、これ!最初からめちゃくちゃ速いじゃないか!」
完璧に素が出てる。
ジェットコースターへの驚きよりも、彼の反応の方が面白い。
この人、驚いたり怖くなると全然取り繕えなくなるのね。
きっと隠し事とかできない人なんだ。
そう感じた瞬間、少しだけ彼との未来が見えた気がします。
このひと、旦那様にするには悪くない人かも。
だって浮気とかしたらすぐにわかりそうだし。
私がそんなことを考えているとも知らない彼は、遠くから聞こえてくる 「きゃあああ!」という悲鳴にいちいちビクついていました。
「うわあ、絶叫が聞こえるね。ともえさん、みんな、怖がってるよ。本当に怖いんだ」
彼は私の手を強く握ってきました。
とっさに手を握られてドキドキする反面、彼が無邪気で面白いという気持ちもあります。
そして、もう一つ、私の心に芽生えた悪しき感情が。
私は親切心で、コースターのレースの先を指さしながら解説しました。
コースターの全貌が分かれば、少しは不安も和らぐかもしれないと思ったのです。
「和樹さん、よく見てください。最初に八十度の急角度を上がるんです。あの速度では一瞬ですよ?上しか見えないから空しか目に入りません」
「なにそれ!怖いって!」
「大丈夫ですって。それでそのあと、また八十度を下るんですが、たしかその時が最高速度です。一瞬で降りちゃいますから怖くないです。建物に接近するので、ぶつかる!って思っちゃうかもしれませんが、一瞬のことだし、レールの上です。ぶつかることはありませんから安心してください」
「すごく怖いよ!爆速で地面に近づくとかありえん」
「いえいえ、こんなの序の口ですよ。まあ、その後は急カーブが続くので、外に投げ出されちゃう!って思うかもしれませんけど、安全バーは確実に私たちを守ってくれます。ギュッと握っていれば放り出されることはありませんから」
「握ってないと飛ばされるようなこと言うなよ」
どんどん怯えた表情になる和樹さん。
私からも名前で読んだのに、恐怖が勝って気づいていない様子。
ガクブルと震える彼の手を私からギュッギュッと握ってあげます。
「大丈夫、すぐに終わりますって」
すると手を握られて安心したのか、和樹さんは少し冷静な顔になって笑います。
「ともえさん、かわいい顔してドSですね」
クスクスと笑いながら問いかけられ、私はちょっと調子に乗ってあざとく目をパチクリとさせてみました。
「ふふっ。ドSな女の子は嫌いですか?」
普通の男性なら少し引いてしまうかもしれないセリフ。
だけど、彼の予想を超える答えはすぐ返ってきました。
「俺を満足させられるかな?」
ドヤ顔で胸を張る彼を見て、私は思わず噴き出しました。
「ドMじゃん!」
ああ、なんだか周りの目も忘れてすっかり楽しんでしまっている。
初対面のあの緊張が嘘のように、今は彼と過ごす時間がたまらなく愛おしい。
そんな仲良しなやり取りをしているうちに、いよいよ私たちの順番がやってきました。
戻ってきた前列の人たちがぐったりしているのを見て、石垣さんの顔が再び青ざめます。
「さあ、和樹さん。行きますよ!」
「ちょっ、心の準備が……!」
怯える彼の腕をしっかり掴み、私は大きく開いたゲートへと足を踏み入れました。
逃がしませんよ?
だって、私はあなたの隣で、もっといろんな表情が見たいんだから——。
カツーン、カツーンと鉄の階段を登っていますと、水道橋周辺の景色が一望できるくらいの高さに到達しました。
高層ビルばかりで、あまり良い景観とまではいえません。
普段の私なら高所恐怖症が出て震えて歩けなくなることでしょう。
しかし、今の私はウキウキ。
楽しい楽しいジェットコースターが待っているんです。
ジェットコースターを前にしたら高いところなんて平気、平気。
ルンルンな私と比べて、石垣さんは非常に足が重たい様子。
彼はひざに手をつく勢いで俯きながら階段をゆっくりと歩いています。
私は少し不安になって話しかけてみました。
「どうしました?高いところ、怖いんですか?」
すると彼は気丈に笑いました。
「いえ、そんなことはないですよ。仕事柄、座りっぱなしなので階段が疲れるだけです」
そう言う彼の膝が少しプルプル震えています。
これはきっとジェットコースターに対する恐怖が膝にきているのでしょう。
石垣さんは恐怖と階段の疲労で 「はあはあ」と呼吸を荒げています。
どんどん歩くペースが遅くなる彼を私は励ましました。
「さあ、石垣さん。頑張って!130キロの猛スピードがあなたを待ってますよ!」
「はは、そうだね。楽勝だよ」
おやおや。
余裕がなくなって、言葉遣い変わってきました。
これが素が出たということでしょうか。
隠されていた本性が明るみになることも恋愛の醍醐味。
もっともっと、彼の本性を見たいと私の心が叫んでいます。
「さあ、あともう少しですよ。楽しみですね!」
「ああ、そうだね」
彼が悲鳴を上げながら受け答えしている間に、ようやく受付がある階にたどり着きました。
広いスペースに、行列を仕切る長いロープが貼られています。
きっと休日はこの階に人がすし詰めになるのでしょう。
しかし、今日は平日。
並んでいるのは十人程度なので、一巡したら順番が巡ってくるはず。
こんなに空いているなんて嬉しすぎます。
「石垣さん!すぐに順番は回ってきますよ。並びましょう!」
しかし、石垣さんからの返事はありません。
振り返って彼の顔を見ると、青ざめた顔で備え付けられたモニターを見ました。
モニターにはジェットコースターの説明アナウンスと、注意事項が流れていました。
「80度の急降下と、最高速度127キロの超加速を体験できます」
「メガネや小物が落ちる危険があります。すべてロッカーに預けてください」
「万が一、物が落ちたら保証はできませんし、損害賠償の可能性があります」
私にしてみたら、 「ふーん」くらいの内容なのですが、彼にとっては驚愕の説明だったようです。
「メガネが吹っ飛ぶのか?ポケットを空にしないとまずいくらいすごいのか?というか、損害賠償?」
なにかブツブツ言っています。
私は彼の手を引っ張りました。
「よくある定型文じゃないですか。さあ、乗りますよ」
「あ、うん」
私は顔面蒼白の彼を引っ張って受付を行います。
体に不調がないかなどのありきたりの説明を受け、そしてロッカーの鍵を受け取って荷物をすべてロッカーに突っ込みました。
「石垣さん。ポケットの中、大丈夫ですか?」
「ああ。空にしたよ」
「じゃあ、大丈夫ですね!」
「損害賠償」
「なにも持っていないんだから、何も起きませんってば!」
時間稼ぎをする彼を引っ張って、私たちは乗り場に着きました。
そこではすでに前の順番の人たちがコースターに乗り込んだばかり。
安全バーもしっかり下りていて、乗った人は今か今かとワクワクしている状況です。
「石垣さん!出発しますよ!次ですね。順番早くてラッキー」
「ああ、そうだね」
彼が生返事をしたところ、出発の合図が鳴ります。
その合図と共に、係員の方が満面の笑みで手を振りました。
「いってらっしゃい!」
すると、コースターは音を立てながら早い速度で出発したのです。
ゴーと唸るような音と共に、スーと流れるように進むコースター。
それを見て、私は 「あれ?」と首を捻ります。
(あれ?こんなに初速、早かったっけ?)
石垣さんも同じことを思ったようで、驚いた様子でコースターを凝視しています。
「ジェットコースターって、カタカタとゆっくり上がっていくんじゃないのか?なんだ、これ!最初からめちゃくちゃ速いじゃないか!」
完璧に素が出てる。
ジェットコースターへの驚きよりも、彼の反応の方が面白い。
この人、驚いたり怖くなると全然取り繕えなくなるのね。
きっと隠し事とかできない人なんだ。
そう感じた瞬間、少しだけ彼との未来が見えた気がします。
このひと、旦那様にするには悪くない人かも。
だって浮気とかしたらすぐにわかりそうだし。
私がそんなことを考えているとも知らない彼は、遠くから聞こえてくる 「きゃあああ!」という悲鳴にいちいちビクついていました。
「うわあ、絶叫が聞こえるね。ともえさん、みんな、怖がってるよ。本当に怖いんだ」
彼は私の手を強く握ってきました。
とっさに手を握られてドキドキする反面、彼が無邪気で面白いという気持ちもあります。
そして、もう一つ、私の心に芽生えた悪しき感情が。
私は親切心で、コースターのレースの先を指さしながら解説しました。
コースターの全貌が分かれば、少しは不安も和らぐかもしれないと思ったのです。
「和樹さん、よく見てください。最初に八十度の急角度を上がるんです。あの速度では一瞬ですよ?上しか見えないから空しか目に入りません」
「なにそれ!怖いって!」
「大丈夫ですって。それでそのあと、また八十度を下るんですが、たしかその時が最高速度です。一瞬で降りちゃいますから怖くないです。建物に接近するので、ぶつかる!って思っちゃうかもしれませんが、一瞬のことだし、レールの上です。ぶつかることはありませんから安心してください」
「すごく怖いよ!爆速で地面に近づくとかありえん」
「いえいえ、こんなの序の口ですよ。まあ、その後は急カーブが続くので、外に投げ出されちゃう!って思うかもしれませんけど、安全バーは確実に私たちを守ってくれます。ギュッと握っていれば放り出されることはありませんから」
「握ってないと飛ばされるようなこと言うなよ」
どんどん怯えた表情になる和樹さん。
私からも名前で読んだのに、恐怖が勝って気づいていない様子。
ガクブルと震える彼の手を私からギュッギュッと握ってあげます。
「大丈夫、すぐに終わりますって」
すると手を握られて安心したのか、和樹さんは少し冷静な顔になって笑います。
「ともえさん、かわいい顔してドSですね」
クスクスと笑いながら問いかけられ、私はちょっと調子に乗ってあざとく目をパチクリとさせてみました。
「ふふっ。ドSな女の子は嫌いですか?」
普通の男性なら少し引いてしまうかもしれないセリフ。
だけど、彼の予想を超える答えはすぐ返ってきました。
「俺を満足させられるかな?」
ドヤ顔で胸を張る彼を見て、私は思わず噴き出しました。
「ドMじゃん!」
ああ、なんだか周りの目も忘れてすっかり楽しんでしまっている。
初対面のあの緊張が嘘のように、今は彼と過ごす時間がたまらなく愛おしい。
そんな仲良しなやり取りをしているうちに、いよいよ私たちの順番がやってきました。
戻ってきた前列の人たちがぐったりしているのを見て、石垣さんの顔が再び青ざめます。
「さあ、和樹さん。行きますよ!」
「ちょっ、心の準備が……!」
怯える彼の腕をしっかり掴み、私は大きく開いたゲートへと足を踏み入れました。
逃がしませんよ?
だって、私はあなたの隣で、もっといろんな表情が見たいんだから——。
