「訴えたらいい、慰謝料を請求するんだ」
愚痴を一通り聞き、レイは結論を出す。
「ちょっと大袈裟じゃありません?」
「大袈裟なものか、正当な権利だろう。互いの両親に挨拶をすませ、式場の下見へも行っていたんだよな? 婚約破棄じゃないか」
「結納とかは、してないので」
「していなくとも、2人の間で結婚という言葉は出ていた?」
「それは、はい。というか、法律に詳しいんですか?」
レイのポテトチップスを摘んでいた動作が止まり、気まずそうに親指と人差し指を擦り、塩を落とす。
「漫画で読んだくらいの見識だ」
「マンガ……わたしたちの状況こそ、それっぽくないです? 記憶喪失の男性と失恋した女性との奇妙な同居生活、はちゃめちゃコミックスにありそう」
レイと自分を交互に示す。
「はちゃめちゃコミックスとは?」
「マンガサイト。レイは電子じゃなく紙派?」
「そ、そうだな。紙をめくるのがいいな」
「ふーん」
チューハイのプルタブを引く。
「なにより、あんな風に浮気されたのがマンガっぽいですけど。これ、現実ですよね?」
「……ああ、残念ながらな」
レイも缶を持ち上げる。乾杯とは言わずに、軽くぶつけた。
ポテトチップスのほか、チーズや枝豆などのおつまみ、値引きシールが貼られたお惣菜が床に並ぶ。
「随分、買い込んだな。これは?」
「マカロニサラダです」
「それは分かる。この、30パーセントという表記はなんだ? この値段から割り引くのか?」
「……もしかして、本当に記憶喪失なんですか?」
「設定じゃないと何回言えば――あっ」
マカロニサラダの破格さに缶を倒してしまう。わたしは缶を倒されたことより、レイとの近さに驚いた。慌てて、身を引く。
「もう、何をやってるんですか! ぞうきんは、っと」
まとめておいた啓太の荷物へ手を伸ばす。
「お、おい、それは」
「置いていかれた服です。わたしがあげたやつなんですけど。要ります? 今のシャツよりマシですし?」
レイの側に畳んで置き、Tシャツの裾を引っ張る。伸びない生地が身体にぴったり沿う。
「要らない。俺のために、あつらえたものがある」
「あつらえたって。既製品です」
「真琴が選んでくれたじゃないか」
レイは啓太のトレーナーをこぼしたチューハイに押し当てる。
「……なんだか、そういう言い方されると、胸が痛みます」
「ならば、新しい服を買ってくれ。正直言うと、腕が上がらない」
きつそうに両手を上げて見せ、スーツ姿では分からなかった腕の筋肉が浮かぶ。思ったより逞しい。つい、その輪郭を目で追ってしまった。
「分かりました。明日、一緒に買い物へ行きましょう」
月明かりの差す部屋に、缶が軽くぶつかる音が響く。
愚痴を一通り聞き、レイは結論を出す。
「ちょっと大袈裟じゃありません?」
「大袈裟なものか、正当な権利だろう。互いの両親に挨拶をすませ、式場の下見へも行っていたんだよな? 婚約破棄じゃないか」
「結納とかは、してないので」
「していなくとも、2人の間で結婚という言葉は出ていた?」
「それは、はい。というか、法律に詳しいんですか?」
レイのポテトチップスを摘んでいた動作が止まり、気まずそうに親指と人差し指を擦り、塩を落とす。
「漫画で読んだくらいの見識だ」
「マンガ……わたしたちの状況こそ、それっぽくないです? 記憶喪失の男性と失恋した女性との奇妙な同居生活、はちゃめちゃコミックスにありそう」
レイと自分を交互に示す。
「はちゃめちゃコミックスとは?」
「マンガサイト。レイは電子じゃなく紙派?」
「そ、そうだな。紙をめくるのがいいな」
「ふーん」
チューハイのプルタブを引く。
「なにより、あんな風に浮気されたのがマンガっぽいですけど。これ、現実ですよね?」
「……ああ、残念ながらな」
レイも缶を持ち上げる。乾杯とは言わずに、軽くぶつけた。
ポテトチップスのほか、チーズや枝豆などのおつまみ、値引きシールが貼られたお惣菜が床に並ぶ。
「随分、買い込んだな。これは?」
「マカロニサラダです」
「それは分かる。この、30パーセントという表記はなんだ? この値段から割り引くのか?」
「……もしかして、本当に記憶喪失なんですか?」
「設定じゃないと何回言えば――あっ」
マカロニサラダの破格さに缶を倒してしまう。わたしは缶を倒されたことより、レイとの近さに驚いた。慌てて、身を引く。
「もう、何をやってるんですか! ぞうきんは、っと」
まとめておいた啓太の荷物へ手を伸ばす。
「お、おい、それは」
「置いていかれた服です。わたしがあげたやつなんですけど。要ります? 今のシャツよりマシですし?」
レイの側に畳んで置き、Tシャツの裾を引っ張る。伸びない生地が身体にぴったり沿う。
「要らない。俺のために、あつらえたものがある」
「あつらえたって。既製品です」
「真琴が選んでくれたじゃないか」
レイは啓太のトレーナーをこぼしたチューハイに押し当てる。
「……なんだか、そういう言い方されると、胸が痛みます」
「ならば、新しい服を買ってくれ。正直言うと、腕が上がらない」
きつそうに両手を上げて見せ、スーツ姿では分からなかった腕の筋肉が浮かぶ。思ったより逞しい。つい、その輪郭を目で追ってしまった。
「分かりました。明日、一緒に買い物へ行きましょう」
月明かりの差す部屋に、缶が軽くぶつかる音が響く。

