御曹司と床でピザたべる

 エレベーターの扉が開くのを、頭を下げて待つ。

「真琴?」

 降りてきた人物のつま先が、わたしの前で立ち止まる。見覚えのある革靴に顔を上げると――

「ここで、なにしてるの?」
「そっちこそ。これ、役員エリア専用のエレベーターだぞ」
「知ってる。啓太がどうして乗ってたのか、聞いたの」
「――はあ、呼び出し食らったんだ。そっか、真琴もか」

 啓太は面倒くさそうに襟足をかき、エレベーターを最上階へ戻す。社長がいつでも乗れるようにしておく、我が社の暗黙のルールだ。

「わたしもって、なに? 啓太と一緒に呼び出されるような真似、してないんだけど?」
「そんな露骨に嫌な顔、するなよ。てか、キレイになったな、真琴」
「はあ?」

 背筋に寒気が走り、一歩後ずさり。

「やっぱり、藤堂社長と付き合ってるのか?」
「藤堂社長?」
「ほら、これ」

 スマホを取り出し、わたしが額しか映っていないレイとのツーショットを見せてくる。

「SNSでこれが流出してるんだとよ」
「……まさか、啓太がやったの?」
「ふざけんな、やるかよ! 今だって隣の女が真琴だとは言わなかった」
「なんで言わなかった?」
「そりゃあ、まあ、真琴にはひどいことしたし? オレが、その、言えた立場じゃないが、次はいい恋愛をしてほしい、みたいな」

 途切れがちな言葉の端々に、彼なりの反省が滲んでいた。

「なにそれ、今更」
「そう言われるだろうな、うん」

 啓太は反論せず、ただ頷く。

「この写真のどこが問題なのよ?」
「今、藤堂グループはうちの会社を買収しようとしてる。社長のスキャンダルなんて、交渉に影響しかねないだろ」
「いやいや、スキャンダルもなにも」
「藤堂社長には婚約者がいるらしい。それなのに、別の女と親密にしてる写真が出回ったら?」
「それは……」

 背中に誰かの視線を感じた。

「それ、私が流出させたんですよ。河合さん、啓太さんと別れたばかりなのに、もう新しい恋愛を? すごいなあ、玉の輿じゃないですか?」

 足立さんは目を赤く腫らし、こちらを睨みながら近づいてくる。啓太はエレベーターを呼び戻すと、わたしの前に立った。

「そんな風に庇うなんて。やっぱり、啓太さんは河合さんが大切なんですね」
「何度も話したよな? 真琴とは終わってるって。それと君とも終わったんだ」

 妊娠したと偽ってまで、啓太と結婚しようとした足立さんに同情はできない。破談になったからといって、写真を流出させていい理由にもならない。

 だけど。

「ねえ、啓太」
「真琴はエレベーターがきたら、乗れ」
「うん、分かった。あのさ、ひとつだけいい?」
「んだよ」

 こんなときにまで小言を言われると思ったのか、うんざりした顔をする。

「啓太はもう終わったつもりでも、足立さんはそうじゃない。わたしに格好つけないで、足立さんときちんと向き合いなよ! バーカ!」

 そこまで言って、啓太の背中を押す。
 啓太がよろめくと、足立さんはすかさず支えようとしていた。