優しい死神さんと、空気じゃない私

 本当は、こんな悲惨な過去を面白おかしく語りたくなんてなかった。

 語ることで、この絵になかの被害者ではなく、加害者の立場になってしまうかのように感じていた。

 友人なら、言えばわかってもらえる。特に仲のいい『マキ』にならと思い「でもーー」と言い返そうとした時、前の席の男子生徒がふりかえり、言葉を挟んできた。

「この時代の人たち『死刑』を見せ物にしていたんだよね、元々心が獣のように残酷なんだよ」

 タイミングを逃し、何も言えず黙ってしまう。

 玲奈はその言葉に反論したら、周りから「いい子ぶっている」と見えてしまうと、恐れていた。

 ここは波風立てないよう。すかさず玲奈は胸を刺されるような痛みを覚えながらも、合わせるように愛想笑いを浮かべた。

 彼女の言う「上手くやる」ために、自分も今こうして本音を偽っている。

 教室からは、他の生徒の「でも、不吉なカラスもこんなにたくさん群がっているから、やっぱり魔女なんじゃないの」と冗談めかした声が聞こえた。 

 その声にマキもスクーンを眺め「本当だ」と乗っかるように笑っていた。
 玲奈はその言葉を聞きながら、最近ゴミ置き場で見かけるカラスたちの姿を思い出していた。

(ただ必死に生きているだけなのに……。不吉だなんて、勝手なイメージを押し付けられているだけなんじゃ……)

 あの朝に見つめ返してきたカラスたちの瞳は、どこか純粋で、まっすぐに見えていた。

 誰もその本当の姿を見ようとしない理不尽さに、玲奈の胸には小さなざわめきが残り続けていた。

 やがてチャイムが鳴り、放課後になると、玲奈は「今日は心の晴れない日」だと、夕闇が迫る帰り道のなか、引き寄せられるように、普段はあまり通らない大きな道路へと足を向けていた。