御影先輩、今日の報告です。

「では、早速契約が決まったところで自己紹介と行きましょうか。」

「契約!?」

「契約でしょう?」

「まぁ......見方によっては、そうですね。」

「では改めて。御影玲司(みかげれいじ)と言います。よろしくお願いします。」

「桐谷令花と言います。こちらこそよろしくお願いします。」

「突然だけど、理系、文系はどっちですか?」

「理系です。医学部志望なんで。」

御影は驚きに目を見開いた。まさか自分と同じとは。

「びっくりしました。奇遇ですね。でも、それなら教えやすくていいですね。」

御影さんは気さくに笑った。やっぱり、休学のことをを知っていても医学部を目指していることを馬鹿にしないし、良い人そうだ。
......そうだ、いいことを思いついた。

「御影さん、ゲン担ぎに御影先輩って呼ばせてもらってもいいですか。」

御影さんはおかしそうにクスリと笑うと、いいですよ、と返した。

「本当に僕の後輩にして見せますよ。」

頼もしい言葉だ。でも、私の勉強のレベルの悲惨さを知らないだけかもしれない。休学前も学校を休みがちだったせいで、知識は穴だらけだし、苦手なところはとことん苦手だ。究極の馬鹿という訳ではないのだが、いかんせん授業に出てない、テストも受けないという過去で、演習量が圧倒的に足りていない。他にも、自分の至らないところを上げればキリがない。

「そのお言葉はありがたいんですけど......私、結構ひどい状況で......」

「そうですか。では具体的に、教科ごとに進捗状況を教えてください。得意、苦手も含めて。」

「まず、国語。実は漢検二級を持っているので漢字は安心です。現代文も得意な部類です。でも、古文漢文がひどいです。50点中、平均24点とかのレベルです。」

令花は、幼いころから母に言われて漢検を受けてきていたので、誇らしげに言った。だが、後半は打って変わって萎むように告白していく。

「数学は、なかなかヤバいです。数Ⅰはマシですが数Ⅱ、A、B、Cは一度やっただけで復習ができていないので未知数です。そして数Ⅲは今進めているのですが、微分で躓いています。」

数学は令花の苦手科目だ。担当の先生がとっても怖い先生で、しかも授業中に問い詰められた経験があるので、令花はすっかり数学が嫌いになってしまった。

「理科は、選択科目が物理と化学です。物理は、一番苦手で、できない科目だったんですけど、今物理基礎から勉強し直してて、意外とできるようになってきています。希望が見えますね。化学はぼちぼちという感じなんですけど、学校の有機化学の授業が全然わからなくてついていけなかったのでとても不安です。」

有機化学は、本当にちゃんと話を聞いているのに、最初から最後まで全然分からなかった。とても難しいし、未知の言語に聞こえてくる。

「社会の選択科目は公共倫理です。これは復学後の学校の授業のみでいいかなって思ってます。情報も同じ感じです。」

御影は注意深く耳を傾けていた。

「なるほど。では、今の桐谷さんの課題は、主に数学と理科という事ですね。ちなみに、英語はどうですか。」

はっ、英語のことを忘れていた。

「あ、英語は、英検二級を持っていて、今の勉強は、準一級の単語と、長文の練習をたまにやっている感じで、英語もマシな部類です。」

「なるほど。では、教科ごとの出来ではなく、勉強で困っていることはありませんか?」

「あります。まず、鬱の影響か、集中が続かないです。それと、やる気の問題かどうかは分からないんですけど、勉強できる日とできない日の差がすごくて、思うように勉強の時間が取れないです。あと、一日に勉強できる時間が短いのも悩みです。これは鬱になった後からの症状です。」

「そうですか。」

御影はしばらく考えた後言った。

「ではまず、毎朝、僕に何の勉強をするか連絡してください、そしてその夜、それが計画通りに進んだかとその日学んだことを連絡してください。これによって毎日勉強する習慣が付きやすくなるでしょう。」

「わかりました。私もいい考えだと思います。」

「勉強時間が短いのは、そう簡単には直せないと思います。徐々に、少しずつ、頑張って伸ばしていきましょう。」

「わかりました。じゃあ、その日の勉強時間も報告しますね。」

「はい、そうしましょう。それと、毎週金曜日にここで会いましょう。そこで一週間のフィートバックを行います。メールでは応えきれない質問もそこで教えます。あ、そうそう、分からないところがあれば聞いてください。」

「了解です。ありがとうございます、御影先輩。」

すると、御影はまたおかしそうに笑った。

「先輩って呼ばれるの、慣れてないんですか?」

「えぇ、あまり。先輩と呼ばれるのはいいものですね。絶対、本物の先輩後輩関係になってみせましょうね。」

「はい!」

やはり頼もしい。なにか理由でもあるのだろうか。

「では今日のところはこれで。」

そういうと伝票を持って出ていこうとするので慌てて追いかけた。

「待ってください。私が払います。今日はもともと助けてもらったお礼ですし。」

「いえ、年下に払わせるわけにはいきません。気にしないでください。」

数秒間見つめあったのち、先輩が折れてくれた。きっちり紅茶とコーヒーの代金を払うと、外に出て先輩と別れた。

見ず知らずの学生に声を掛けるなんて、余程変わったイケメンだと思ったが、意外と常識人そうだ。自分に不利益は無さそうだし、勉強の習慣をつけるのを手伝ってもらおう。そう思いながら、私は家に帰った。