御影先輩、今日の報告です。

翌日、翌々日も私は図書館に通った。
なんで高校生、しかも受験真っただ中の3年の私が学校に行かず、図書館に通っているのか。

それは私が学校で鬱病を患ったからである。
詳しい事は話せないが、まあ色々あったのである。
それでついに学校に通えなくなった私は休学という手段を取ることにした。今は定期的に心療内科に通っているし、正真正銘の鬱病である。一応言っとくけど。
.......誰に言ってるのかって?まあそういう所は気にせずに。

ということで、休学し始めたのは9月なので、そのまま留年し、一個下の学年に混ざることになったのだ。

そういうわけで、年中夏休み状態の私は、勉強時間を確保するために自宅近くにある図書館に通っているという訳だ。

しかし、あれからお兄さんに会うことはなく、存在さえも忘れかけていた、一週間後、転機は訪れた。

「あれ、また会いましたね。」

なんと、また自習スペースで座って勉強していた私の隣に件のお兄さんが座ったのだ。
驚き桃の木山椒の木なんて心の中で呟く。

「奇遇ですね、そういえばカフェに行く約束でしたよね?お兄さん、今日は何時まで此処にいる予定ですか?」

私が彼をお兄さん、と呼ぶと、彼は面映ゆそうに顔を歪めた。僅かに。かなーり僅かに。
元々あまり表情を表に出さない人なのか、物腰は柔らかいけど。

「そうでしたね。もしよければ休憩に三時ごろに、カフェ行きませんか。」

「いいと思います!ではまた。」

また勉強を再開する。お兄さんのことが気になりだして中々集中し直すのは難しかったが、なんとか三時まで耐えると、今度は私からお兄さんに話し掛けに行った。

「あの......そろそろカフェ、行きませんか。」

「あぁ、丁度僕も話し掛けようと思っていたんです。行きましょうか。」

二人で図書館の一階の端にある、こじんまりとしたカフェに向かう。

私は紅茶を、お兄さんはブラックコーヒーを頼むと、少しずつ話し始めた。

「お兄さんは大学生なんですか?」

「はい、そうですよ。」

「ちなみに、どこに通っているか聞いても......?」

「ふふ、いいですよ。僕はA大学の医学部です。今は二年生です。」

「えっ!私、A大学志望なんです!」

「おお、そうなんですね。ちょっと突っ込みますけど、なぜ高校生は学校へ行っている時間帯にあなたは図書館にいるんですか?」

お兄さんに鬱病を患って休学していることを伝えると、なるほど、と納得したように頷いた。

「そういうことでしたか。言いにくいことを話してくれて、ありがとうございます。今はもう、体調は大丈夫ですか?」

「はい、もうだいぶ良くなりました。ただ、一日の勉強時間がなかなか取れなくて......それと、通っていた塾も辞めてしまったので勉強を聞ける人がAIしかいなくて。かなり悪戦苦闘してますね。」

この際、医学部生に勉強の悩みを相談してしまえ!と打ち明けると、お兄さんの目がキラリと光った気がした。

「そうですか......話は変わりますけど」

サラッと流された!

「この前説明した問題、解きなおししていますか?もしよければ見せてほしいです。」

「いいですよ。」

私はリュックから数学のノートを取り出した。少し字が汚いページもあるけど、大丈夫だろう。お兄さんから教えてもらった問題は解けるようになったのに感動して、いつもより丁寧に復習したものだ。

「はい、ここです。」

お兄さんは、ノートに目をやると、スッと目を細めた。

「提案なんですけど、僕の生徒になりませんか。」

「生徒......?」

「はい。もしよければ勉強を見て差し上げましょうか、という提案です。」

「それは大変助かりますし、すごい魅力的な提案ですけど.......お兄さんにメリット無くないですか?」

怪しい話には乗らないぞ!と少しだけ警戒心を表す。

「では、僕のメリットを説明しますね。まず一つ目、人に教えるという経験を得られるという事です。丁度、塾や家庭教師のバイトをしたいと思っていましたが、時間がうまく取れずに困っていたのです。それに、あなたのノートを見させてもらいましたが、復習をしっかりしていますね、見所があります。
二つ目は、自分の知識を言語化する能力が向上することです。三つ目は、忘れていた知識を再定着できること。もっと挙げられますが、どうですか?納得いただけました?」

「......でも、医学部の学生にそんな時間あるんですか?」

「毎日教えるなんてことはしませんよ。会えて週に一回程度でしょう。でも、対面せずともサポートする方法などいくらでもありますよ。」

「......じゃあ、その話、お受けします。というか、受けさせてください。私にはメリットしかないです。よろしくお願いします。」

「はい、よろしくお願いします。その返事が聞けて良かったです。」

かくして、私とお兄さんの不思議な関係が始まった。