海沿いの古工場と猫

 後日から働き始めてみたものの、漁港ということもあって、午前中は多忙を極めていた。仕事内容は注文を取って、出来た食事を運び、終われば片付けをする、その繰り返しだった。エプロンは支給されたけれど、漁港に似つかわしくない明るい色で、目立つ気がした。それでも来る客層の顔が明るくて、人が疎らになった頃には落ち着いた。

 昼を過ぎる前に、祥子さんから夕方前にまた来てと言われ、家に帰った。
 
 部屋に居ても、何もすることが思いつかなくて、荷解きしていない段ボールを片付けようと取り掛かった。不要な物はほとんど郊外で捨ててきたから、一箱だけ隅に寄せていた。中身は見なくても分かるけれど、一番処分に困る物だった。

 そのまま燃やそうかと考えたところで、海に行こうと思いつき、防災袋からライターを手に取り、箱を持って出掛けた。

 けれど、愛車の後部座席で足を止め、箱が目立つことに気づき、そこで諦めて静かに箱を開いた。すると、紙袋が入っていて、ふと息を漏らした。大きめの紙袋を後部座席に押し込み、箱を畳んでから、縁側の下に置いた。

 そこから運転席に乗り込み、海へと向かって行った。目立たなさそうな所はないかと海岸沿いを走りながら探していると、遠くに工場らしき建物が見えた。ここから見ても古びていて、人けもなくて大丈夫そうだ、と思っていると、近くで愛車を停められる場所を見つけた。

 運転席から降りて、後部座席の紙袋を抱え、車の鍵を閉めたことを確認し、海へと歩いて行った。砂浜を歩きながら、適当な流木を探し、何本も手にして、小さな囲いを作った。それから焚き付けになりそうな物を探して歩いた。だけど、ペットボトルや石ころばかりで、波打ち際には釣り糸が寄せられていた。

 そこで諦めて、踵を返し、囲いを作った場所に戻った。ポケットからライターを取り出し、紙袋の角から火を点けてから、そのまま四隅にも火を移した。白い煙が上がると共に、紙袋に火が回り、小さな炎が上がっていた。

 しばらく眺めていると、紙袋の角が捲れて、白い裾の部分が露わになった時だった。

「お前、何してんの?」

 その声に目を向けると、あの男性がこちらを見て、眉を顰めていた。

「見ての通りです」そう答えると、男性は「あ、そう」と言って、ポケットから煙草を取り出し、口にくわえながら言った。

「別にいいけどさ、早まんなよ」

 男性はくわえた煙草に火を点け、煙を下に向けて、長めに吐き出していた。