田舎町の先のほうから、一台の車がこちらに向かって来た。その車は遠目で見ても、古い年代のものだった。車は目の前で斜めに停まり、男性が工具箱を持って運転席から出てきた。
長めの黒髪に、両耳にフープ型のピアス。口髭から繋がる顎髭が特徴的だった。白いTシャツに黒い繋ぎの服で、袖を腰の辺りで結んでいた。見るからに”工場で働いてる”といった感じだったけれど、自分が想像していた男性像よりも若くて、愛車を直せるのか不安になった。
すると、男性はこちらを見て、一瞬だけ止まってから、おもむろに口を開いた。
「鍵は?」
「差したままです」
そう答えた時には、男性がボンネットを開けていた。ここからでは手元が見えなかった。少し気になって背伸びをしてみると、男性がボンネットの脇から顔を覗かせて言った。
「お前、住むとこあんのか?」
尋ねられたことに、思わず視線が後部座席に行き、平坦な顔を繕って言った。
「夜逃げじゃありません」
「へぇ……、引っ越しか。なんにもないとこなのに、物珍しいな」男性はそう言って、ボンネットを閉じ、汚れた軍手を外しながら、運転席に向かった。その様子を見ていると、すぐにエンジンが掛かり、男性がこちらを見て言った。
「まいどあり。取り敢えず三千円にしておく。けど、清掃や交換したほうがいいぞ」
「ありがとうございました」そう言いながら財布を取りに助手席に行き、鞄から財布を取り出すと、一万五千円が入っていた。細かいお釣りまで持っているようには見えないし、手間賃や交通費を考えたら、五千円が妥当だと思った。
「お待たせしました。受け取って下さい。それじゃあ……」押し付けるように、お札を結んだ袖の部分に入れ、後退りしながら、運転席に乗り込もうとした時だった。
「待て」男性の低い声に、足を止めると、こちらの手を取った。そこにお釣りの札を置き、逃げないように指を軽く握らせ、男性は言った。
「自棄になるの早いだろ。こういうのはきっちりしとかねぇと、噂も早いぞ」
その顔には眉間に皺が寄っていて、頷いて見せることで、場を凌ごうと、少し深めに頭を下げた。そこから運転席に乗り込もうとすると、男性がドアを手で押さえて言った。
「暇になったら持ってこい。きっちり直してやる。じゃあな」
引き止める隙もなく、男性はそのまま帰って行った。自分も車に乗って、田舎町へと向かって行った。
長めの黒髪に、両耳にフープ型のピアス。口髭から繋がる顎髭が特徴的だった。白いTシャツに黒い繋ぎの服で、袖を腰の辺りで結んでいた。見るからに”工場で働いてる”といった感じだったけれど、自分が想像していた男性像よりも若くて、愛車を直せるのか不安になった。
すると、男性はこちらを見て、一瞬だけ止まってから、おもむろに口を開いた。
「鍵は?」
「差したままです」
そう答えた時には、男性がボンネットを開けていた。ここからでは手元が見えなかった。少し気になって背伸びをしてみると、男性がボンネットの脇から顔を覗かせて言った。
「お前、住むとこあんのか?」
尋ねられたことに、思わず視線が後部座席に行き、平坦な顔を繕って言った。
「夜逃げじゃありません」
「へぇ……、引っ越しか。なんにもないとこなのに、物珍しいな」男性はそう言って、ボンネットを閉じ、汚れた軍手を外しながら、運転席に向かった。その様子を見ていると、すぐにエンジンが掛かり、男性がこちらを見て言った。
「まいどあり。取り敢えず三千円にしておく。けど、清掃や交換したほうがいいぞ」
「ありがとうございました」そう言いながら財布を取りに助手席に行き、鞄から財布を取り出すと、一万五千円が入っていた。細かいお釣りまで持っているようには見えないし、手間賃や交通費を考えたら、五千円が妥当だと思った。
「お待たせしました。受け取って下さい。それじゃあ……」押し付けるように、お札を結んだ袖の部分に入れ、後退りしながら、運転席に乗り込もうとした時だった。
「待て」男性の低い声に、足を止めると、こちらの手を取った。そこにお釣りの札を置き、逃げないように指を軽く握らせ、男性は言った。
「自棄になるの早いだろ。こういうのはきっちりしとかねぇと、噂も早いぞ」
その顔には眉間に皺が寄っていて、頷いて見せることで、場を凌ごうと、少し深めに頭を下げた。そこから運転席に乗り込もうとすると、男性がドアを手で押さえて言った。
「暇になったら持ってこい。きっちり直してやる。じゃあな」
引き止める隙もなく、男性はそのまま帰って行った。自分も車に乗って、田舎町へと向かって行った。



