推しカプの邪魔はしたくないのに、何か間違えたようです

む、むりムリ無理!
 名前呼びなんて、そんな恐れ多いことできません!

 そんな私をよそに、田中君はワクワクした目で、私を見ている。
 おまけに、掛け声まで。

「さあ、いち、にぃの、ハイ」

「よ……」

「よ?」

「よ、よ……」

 ダメだ。

 喉の奥まで出かかっているのに、その先が出てこない。
 田中君は急かすこともなく、面白そうに私を見ている。

「よ……」

「はい、そこまで。席替えが終わったなら前を向け」

 突然、担任の声が飛んできた。

「授業始めるぞ」

 た、助かった……!

 私は慌てて前を向き、教科書を取り出した。

 危なかった。
 あと少し遅かったら、とんでもなく恐れ多いことをさせられるところだった。

 腐の神様。
 今度は助けてくれて、ありがとうございます。

 ほっと胸を撫で下ろしていると、隣から小さな声がする。

「……先生、タイミング悪すぎ」

 隣で田中君が、ぼそっとつぶやいていた。
 
「もうちょっとだったのに」

「…………」

 いかにも残念そうな顔で頬杖をつく、田中君。

 そんなに?
 そんなに私に名前で呼ばせたかったの?

 ……あ。
 そうか。

 私は、斜め前の席に座る小森君の背中を見た。

 小森君のことは『健太君』なのに、自分だけ『田中君』なのが気に入らないんだ。
二人は『健太』『洋平』って呼び合っているのだから。
 もう。
 田中君ってば。
 どれだけ小森君のことが好きなの!

 思わず頬が緩む。

 ――ああ、尊い。
 席替え初日から、サイコーです。