推しカプの邪魔はしたくないのに、何か間違えたようです

「高梨と健太って、仲いいんだ」

「えへへ、いいだろう」

 小森君が得意げに笑う。

「なんだよ、それ!」

 そう言った次の瞬間、田中君が後ろから小森君の首に腕を回した。

「ちょっ、洋平! やめろって」

「うるせえ」

「苦しいって!」

 口では嫌がっているけれど、小森君も笑っている。

 な、なにこれ……。
 田中君の腕の中に小森君がいる。

 二人の顔が、近い。
 身体、密着してる。
 ちょっと待って。

 鼻血出そう……。

 尊い。
 尊すぎる。

 この席、本当にお金払わなくていいんですか?

 そんな私の興奮など知るはずもなく、田中君は小森君を捕まえたまま、こちらへ顔を向けた。

 いや。
 こっち見なくていいから。
 そのまま二人の世界にいてください。

「それにさ」

「……え?」

「なんで小森の呼び方だけ健太君なの?」

「え?」

「俺はずっと田中君じゃん」

 何を言い出すのかと思えば、考えるまでも無いことを……。

「田中君は……田中君だから」

「何それ」

 田中君が少しだけ眉を寄せる。
 その腕の中では、小森君が「そろそろ離せって」と笑っている。

「じゃあ、俺も洋平でいいよ」

「ええっ!?」

 思わず大きな声が出た。

「なんでそんな驚くんだよ」

「だ、だって……名前を呼ぶって……」

 推しを名前呼びにするなんて、大それたことを……。
 突然の提案に、私の鼓動はドキドキと早く動き出した。

「洋平だけど?」

「それは知ってるけど!」

「じゃあ決まり」

「何が!?」

「これから俺のこと、洋平って呼んで」

「む、無理!」

「なんで?」

「なんでって……」

 そんなの。
 眺めているだけで十分なのに、名前呼びなんてハードルが高すぎる!

 しかも、洋平。
 洋平……。

 心の中で呼んだだけなのに、妙に恥ずかしい。

「ほら」

「え?」

「呼んでみて」

「今!?」

「今」

 田中君が楽しそうに笑う。

 待って。
 なんで私がこんな目に。
 私はただ、あなたと小森君を静かに見守りたいだけなのに!