近づいてくる推しを目の前に、頭の中は大混乱だ。
落ち着け、私。
私は備品。
この教室の備品なの!
そう自分に言い聞かせていた。
そのとき。
田中君の指先が、そっと私の頬に触れた。
「……取れた」
「へ?」
田中君が身体を離し、人差し指を見せてくる。
「まつ毛ついてた」
「…………」
まつ毛。
なんだ、まつ毛か。
びっくりした……。
「あ、ありがとう」
すると、クスクス笑う声がする。
「……?」
顔を向けると、小森君がこちらを見て笑っていた。
「健太君?」
「ごめん。なんか面白くて」
「なにが?」
「だって……」
小森君はまだ笑っている。
「田中、距離近すぎ」
「え?」
「まつ毛取るだけで、そこまで顔近づける?」
「……しょうがないだろ。見えなかったんだから」
「ふーん」
「なんだよ」
「別に?」
小森君がニヤニヤしながら田中君を見ると、田中君が少し気まずそうに目を逸らした。
…………。
おや?
これは。
もしや。
田中君、恥ずかしがってる?
小森君に距離が近いって言われたから?
もう。
なんて貴重なショット。
推しの照れ顔が、こんな間近で……。
ああ、腐の神様。
ありがとうございます。



