推しカプの邪魔はしたくないのに、何か間違えたようです

「ちょっと、聞いてよ」

「聞いてるよ」

「今日なんてね、田中君が後ろから小森君にヘッドロックしたの」

「ヘッドロック?」

「そう!」

 思い出しただけで、頬が緩んでしまう。

 小森君の首に回された田中君の腕。
 近づいた二人の顔。
 あの距離。
 あの密着具合。

「もう、すっごく近くて! 顔なんて、あとちょっとで……」

「いや、それ普通にじゃれてただけでしょ」

「分かってないなあ、真由美は」

「分かりたくもないけど」

「想像力が足りないよ」

「美織はありすぎ」

 真由美が呆れたように笑う。

 以前から何度も繰り返してきたやり取りだ。
 私がどれだけ熱く語っても、真由美がBLに目覚める気配は一向にない。

 だけど否定もしない。
 呆れながらも話を聞いてくれる。
 だから私も、真由美の前では隠す必要がなかった。

「でも、そっか」

 真由美が鞄を肩に掛けながら、ふっと笑う。

「美織があの席でいいなら、まあいいか」

「うん。最高の席です」

「私は寂しいけどね」

「私だって寂しいよ」

その言葉に、真由美はぱちくりと目を見開き、立ち上る。

「どうだか。田中と小森見てニヤニヤして、私のことなんて忘れてそう」

「忘れないよ!」

「はいはい」

 笑いながら真由美が教室の出口へ向かう。
 私も慌てて鞄を持ち、その後を追った。

 今日の席替えで、真由美とは離れてしまった。
 それは少し寂しい。

 だけど、私は自分の新しい席を思い浮かべる。

 左には田中君。
 斜め前には小森君。

 明日からも、あの二人をあんな近くで見られる。
 そう思っただけで、自然と足取りが軽くなった。

 ――明日はどんな供給があるんだろう。

 このときの私の頭にあったのは、そんなことだけだった。