例の声が聞こえなかった朝は、なんだか違和感があって落ち着かなかった。
氷雨くん曰く、私は幽体離脱していたらしいのだけど、無事に身体に戻れた喜びよりも、物足りなさの方が勝っていて、変な感じ。
無意識に鞄の取っ手を握る手に力が籠(こも)った。
『────君との約束をこんなに早く果たせるとは思わなかった』
数時間前に初めて会った彼の声が鮮やかに蘇った。
……氷雨くんが、私の悩みを解決してくれたのかな?でも結局、あの声は何だったんだろう?
すっきりしたようなそうでもないような気持ちに見舞われながら、朝の通学路を一人で歩いていると。
「よぉ、夏宮」
聞き覚えのある声が後ろからした。振り向く前に隣にやってきたのは、東堂くんだった。
「東堂くん…おはよう」
「おはよう、兄貴から聞いたよ。まさか夜中に俺の家に来ていたなんてな。色々ビックリしただろ?」
「あはは…私も、まさか不思議な体験をするとは思わなくて凄くビックリした。うん、東堂くんの家のミステリーにも驚かされたよ」
「……まぁ俺たちはアレが『普通』なんだけどな。…そういや、今日の朝は、どうだった?」
「…っ」
会ったら絶対に聞かれると思っていた質問に、鞄を握る取っ手に力がこもった。
「何も無かったか?」
「……うん。今日は聞こえなかったよ」
「そうか。……でもなんか全然嬉しそうじゃないな」
東堂くんが一瞬、ホッとしたような顔をしていたことも知らずに、私はずっと下を向いて歩いていた。



