明日も、明後日も、その先も

〇〇は、時々、わざと私を嫉妬させるようなことを言った。

ある日も、いつものように二人でご飯を食べていたときだった。

「そういえば、今度合コンあるから痩せないと」

あまりにも普通の口調だった。

私は、一瞬だけ箸を止めた。

「……へえ」

「なんか、女の子のレベル高いらしい」

「ふーん」

「医者とか、外資系とかいるんだって」

「……よかったね」

自分でも、驚くくらい可愛くない返事だった。

〇〇は、私の顔を見ていた。

「何その反応」

「別に?」

「怒ってんの?」

「怒ってないよ」

「じゃあ、なんでそんな顔してんの」

「どんな顔?」

「めっちゃ不機嫌」

そう言って、彼は楽しそうに笑った。

私はますます腹が立った。

「……行けばいいじゃん」

「うん、行くよ」

「どうぞ」

「え、いいの?」

「いいって言ってるじゃん」

「ふーん」

〇〇は、わざとらしく考えるような顔をした。

「じゃあ、いい子いたら連絡先くらい交換しようかな」

「……勝手にすれば」

本当は、全然よくなかった。

行ってほしくなかった。

知らない女の子と楽しそうに話してほしくなかった。

その中に、私より可愛い子がいたらどうしよう。

私より話が合う子がいたら。

私より彼の世界に馴染む子がいたら。

そんなことばかり考えてしまう。

でも、私には何も言う権利がなかった。

彼女じゃないから。

彼の予定を制限することも、ほかの女の子と会わないでと言うこともできない。

私が勝手に好きなだけ。

そう思うと、何も言えなくなった。

〇〇は、そんな私を見て、少しだけ目を細めた。

「……ねえ」

「なに」

「嫉妬してんの?」

「してない」

「ほんとに?」

「してないってば」

「へえ」

彼は笑いをこらえるみたいに口元を押さえた。

「……かわいいね」

「は?」

「いや、なんでもない」

「最悪」

私は顔を背けた。

すると、彼は私の手首を軽くつかんだ。

「ごめんって」

「知らない」

「そんな怒んないでよ」

「怒ってない」

「はいはい」

その声が、あまりにも楽しそうで。

私は、ますます悔しくなった。

どうして、この人はこんなに余裕なんだろう。

どうして、私ばかりこんな気持ちになるんだろう。

〇〇は、いつだって自分の世界を持っていた。

仕事も、友達も、趣味も、これから先の人生も。

私がいなくても、きっと何も変わらない。

でも、私にとっては違った。

連絡が来るだけで嬉しかった。

名前を呼ばれるだけで嬉しかった。

会いたいと言ってくれるだけで、その日一日が特別になった。

だから、嫉妬してしまう。

彼の隣にいるのが私だけじゃないかもしれないことが、怖かった。

それでも、嫌われたくなくて、私はいつも平気なふりをした。

「……まあ、楽しんできなよ」

そう言って笑うと、〇〇は私の顔をしばらく見つめていた。

「……うん」

それから、私の頭をぽんと撫でた。

「でも、今日のお前、いつもより可愛いね」

「……何それ」

「別に」

彼は何事もなかったように食事を続けた。

私は、もう何も言えなかった。

嬉しかった。

悔しかった。

そして、そんな一言で嬉しくなってしまう自分が、どうしようもなく嫌だった。

私たちは、そんな関係だった。