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その夜、私は〇〇の腕の中で眠った。
彼の胸に頬を寄せて、呼吸を聞きながら目を閉じる。
あの頃は、帰り際に抱きしめられるたび、これで最後かもしれないと思っていた。
次にいつ会えるのか分からなかった。
明日になれば、また連絡を待つ日々が始まるのかもしれなかった。
だから、離れたくなかった。
少しでも長く、一緒にいたかった。
でも、今は違う。
明日の朝、目が覚めても、きっと隣にいる。
明日も会いたいと言えば、きっと会える。
会えない日があっても、次の約束をしてくれる。
そんな当たり前のことが、私には夢みたいだった。
「……〇〇」
眠りかけた彼を、小さく呼んだ。
「……ん?」
「……明日も、いてね」
〇〇は目を閉じたまま、私を抱き寄せた。
「……いるよ」
「……明後日も?」
「……いる」
「……その次の日も?」
彼は少しだけ笑った。
「……何日聞くの」
「だって、嬉しいんだもん」
そう言うと、〇〇は目を開けて、私を見た。
眠そうな顔で、それでも、真剣な目をしていた。
「……明日も、明後日も、、
「十年後も、二十年後も。その先も。おじいちゃんになって、今みたいに何もかも自分でできなくなっても、隣にいてよ」
彼は、私の手を握った。
「……俺の人生の最後にいるのも、お前がいい」
息が止まった。
〇〇は、もう一度私を抱きしめた。
「だから、これから先、何があっても。俺たちのことを、簡単に終わるものにしないでいこう」
私は、彼の胸に顔を埋めたまま、何度もうなずいた。
「……うん」
もう一度、会いたかった人。
もう一度、触れたかった人。
一度は、永遠に失ったと思った人。
その人が今、私を抱きしめている。
そして、明日も、その先も、一緒にいる未来を考えてくれている。
私は、〇〇の手をぎゅっと握った。
もう、手放したくない。
今度こそ、二人で歩いていきたい。
何でもない日々を、一緒に重ねていきたい。
嬉しいことも、悲しいことも。
うまくいく日も、どうしようもない日も。
一緒にご飯を食べて、くだらない話をして、時々喧嘩して、仲直りして。
年を重ねて、少しずつ変わっていっても。
そのたびに、また隣にいることを選びたい。
あの頃、私は、〇〇に選ばれることばかり考えていた。
でも、これからは違う。
〇〇も私を選んでくれる。
私も、〇〇を選ぶ。
何度でも。
何年先でも。
人生の最後の日まで。
「……おやすみ」
私が小さく言うと、〇〇は私の額にキスをした。
「……おやすみ」
その声を聞きながら、私は目を閉じた。
もう、次にいつ会えるのかなんて考えなくていい。
明日の朝も、隣にいる。
その先も、一緒にいる。
そして、いつか二人で年を取って、今日のことを笑いながら思い出す日が来るのかもしれない。
「あのとき、バーで偶然会ったんだよね」
そんな話をしながら。
あの夜、もう一度出会えたことを。
一度は失いかけた二人の時間を、今度こそ大切にできたことを。
きっと、何度でも思い出す。
私は、〇〇の胸に頬を寄せた。
あたたかい。
ここにいる。
もう、私だけが未来を夢見ているわけじゃない。
〇〇も、一緒に未来を見てくれている。
それが、何よりも幸せだった。
そして、眠りに落ちる直前。
〇〇の腕が、私をもう一度、ぎゅっと抱きしめた。
「……もう、どこにも行かせないから」
その声は、独り占めしたいというだけの言葉ではなかった。
今度こそ、逃げないという約束だった。
私の手を離さず、二人で未来を作っていくという決意だった。
私は、彼の胸の中で小さく笑った。
「……うん」
もう一度、君に触れる夜。
今度は、明日を失うことを怖がらなくていい夜。
そして、これから先の長い人生を、二人で始める夜だった。

