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その夜、私は〇〇と一緒に帰った。
手をつないで歩く帰り道が、信じられないくらい幸せだった。
部屋に着いてからも、私たちはしばらく話していた。
会えなかった時間のこと。
お互いのこと。
本当にどうでもいい、くだらない話。
〇〇が何か言うたびに、私は笑った。
私がふざけるたびに、〇〇も笑った。
ずっと、こんなふうに過ごしたかった。
何かをしてもらわなくてもいい。
どこかへ連れていってもらわなくてもいい。
ただ、隣にいてくれる。
私の話を聞いてくれる。
私が笑ったら、〇〇も笑ってくれる。
それだけで、こんなに幸せなんだと思った。
〇〇が隣にいる。
それが嬉しくて、何度も顔を見てしまう。
すると、〇〇も私を見て笑った。
「……何?」
「……なんでもない」
「……絶対なんかあるじゃん」
「……だって、いるなあと思って」
「……いるよ」
「……うん」
私は、〇〇の肩に顔を埋めた。
「……夢みたい」
〇〇は、私の頭を撫でた。
「……夢じゃないよ」
「……うん」
「……ここにいる」
その言葉を聞いて、私は目を閉じた。
ずっと、ここにいてほしいと思った。
でも、今度は、ただ願うだけじゃない。
私たちは、これからのことを話した。
一緒にいるために、どうしたらいいか。
何かあったら、どう伝えたらいいか。
寂しいときは、どうしたらいいか。
簡単なことばかりじゃないかもしれない。
またすれ違うこともあるかもしれない。
それでも、何も言わずにいなくなるのではなく、ちゃんと話していこう。
そう約束した。
ふと、私は〇〇の手元に目を落とした。
「あ」
「ん?」
「……その鏡、まだ持ってるんだね」
〇〇は、一瞬だけ目を丸くした。
私があげた小さな手鏡。
バッグの中に入れて、ずっと使ってくれていたもの。
「……うん」
「もう捨てたかと思ってた」
「……なんで?」
「だって、私のことなんて忘れたと思ってたから」
そう言うと、〇〇は少しだけ困ったように笑った。
「……捨てる理由ないじゃん」
「でも、男の人が持つには可愛すぎるよ」
「別に、誰に何を言われてもいいし」
彼は、手鏡をそっとテーブルに置いた。
「……お前がくれたものだから」
それだけ言って、私を抱き寄せた。
私は、彼の胸に顔を埋めた。
あの頃、私は知らなかった。
彼が私の話を友達にしていたことも。
私があげたものを、ずっと大切にしてくれていたことも。
私が嫉妬するたび、彼が少しだけ安心していたことも。
お互いに気持ちを隠して、相手のことばかり考えて、なのに何も言えなかった。
好きなのに、怖かった。
失いたくないのに、失うのが怖くて、何も決められなかった。
そして、一度、本当に失いかけた。
「……ねえ」
「ん?」
「……もう、私のこと一人で待たせないでね」
〇〇は、少しだけ体を離して、私の顔を見た。
「……うん」
「私、あのとき、本当に苦しかったんだから」
「……うん」
「何回も連絡しようと思った。でも、迷惑かなって思って、できなかった」
〇〇は、私の頬に触れた。
「……ごめん」
「……うん」
「もう、そんな思いはさせない」
私は、その言葉を聞いて、ゆっくりうなずいた。
「……約束だよ」
「うん」
〇〇は、私を抱きしめ直した。
しばらくして、耳元で声がした。
「……俺さ」
「……うん?」
「お前がいなくなってから、何回も連絡しようと思ったんだよ」
私は、息を止めた。
「……え?」
「何て送ればいいのか分かんなくて。今さら何を言っても、許してもらえないだろうなって思って」
〇〇は、少しだけ苦笑した。
「それで、結局何もできなかった」
私は、彼の服をぎゅっとつかんだ。
「……ばか」
「……うん」
「ほんと、ばか」
「……うん」
私は、顔を上げて彼を見た。
「……連絡してくれればよかったのに」
「……うん」
「私、ずっと待ってたんだよ」
〇〇は、私の目を見つめた。
「……ごめん」
その声が、あまりにも真剣だったから。
私は、もう責めることができなかった。
「……もういいよ」
そう言って、彼の頬に触れた。
「これからは、ちゃんと話してね」
〇〇は、私の手に自分の手を重ねた。
「……うん」
私は、もう一度彼に抱きついた。
〇〇も、抱きしめ返してくれた。
その腕の中で、私はようやく、これからのことを考えられる気がした。
明日のこと。
来週のこと。
来月のこと。
その先の、まだ見えない未来のこと。
今まで、そんなことを考えるのは怖かった。
いつか終わると分かっていたから。
でも、今は違う。
これからのことを、二人で決めていける。
うまくいかないことがあっても、話し合える。
何かを失っても、二人で立て直していける。
そう思えた。
〇〇の腕の中で、私は小さく笑った。
「……ねえ」
「ん?」
「……大好き」
〇〇は、少しだけ照れたように笑った。
「……知ってる」
「……何それ」
「……俺も、分かってるから」
「何が?」
〇〇は、私の頭を撫でた。
「……お前が、どれだけ俺のこと考えてくれてたか」
その言葉が嬉しくて、私は顔を上げた。
〇〇は、まっすぐ私を見ていた。
「……もう、俺の気持ちを試すために、ほかの女の話をしたりしない」
私は、思わず笑った。
「……ほんとに?」
「ほんと」
「合コンも?」
「……行くって言ったら、また嫉妬してくれる?」
「……もう!」
〇〇が笑った。
私も笑った。
あの頃は、苦しくて仕方なかった。
でも今は、同じ言葉を聞いても、もう不安にならなくていい。
私は、彼の胸に顔を埋めた。
「……嫉妬させなくても、ちゃんと好きでいるよ」
〇〇は、何も言わずに私を抱きしめた。
しばらくして、低い声が耳元に落ちてきた。
「……じゃあ、もう試さなくていいんだね」
「……うん」
「……そっか」
その腕に、少しだけ力がこもった。

