二人と別れて、〇〇と私だけになった。
急に、静かになった。
夜風が少し冷たかった。
〇〇が私の方を向いた。
「……もう一軒、行かない?」
「……うん」
連れていかれたのは、昔、二人でよく行っていたバーだった。
店に入ると、懐かしい空気がした。
カウンターの奥。
〇〇は、私を壁側の席に座らせた。
私を独り占めするみたいに。
二人で飲み物を頼んだ。
しばらく、他愛もない話をした。
最近の仕事のこと。
お互いの近況。
〇〇が大変だった時期のこと。
話してくれたことは、私が想像していた以上にいろいろあった。
うまくいかないことが続いて、自分のことで精いっぱいだったこと。
誰にも弱いところを見せたくなかったこと。
いつもは仕事の相談をされる側なのに、自分が誰かに頼る方法は分からなかったこと。
周りからは順調に見られていた。
仕事もできる。稼ぎもある。人脈もある。
今まで積み上げてきたものがあるからこそ、崩れ始めたときに、誰にも知られたくなかったらしい。
「……別に、誰かに相談したところで、どうにかなる問題でもなかったし」
〇〇はグラスを見つめながら言った。
「それに、俺が余裕なくしてるって知られたくなかったんだよね。周りにも、お前にも」
「……私にも?」
「うん」
「何で?」
〇〇は少しだけ笑った。
「……かっこ悪いじゃん」
その言葉に、私は思わず眉を寄せた。
「何それ」
「いや、ほんとに」
「私の前では、かっこ悪くたってよかったのに」
〇〇は何も言わなかった。
私は、グラスを置いた。
「……もっと早く話してくれたらよかったのに」
「……うん」
「私、何も知らなかったから」
「……ごめん」
「何も言ってくれないと、私のことなんてどうでもよくなったんだと思っちゃうよ」
〇〇は、ゆっくり顔を上げた。
「……どうでもよくなんか、なってない」
その言葉に、胸が熱くなった。
「……じゃあ、何で」
「……自分でも、うまく言えなかった」
〇〇はグラスを見つめた。
「いろいろうまくいかなくなって、余裕がなくなって。何をどうしたらいいのか分からなくなってた」
「……うん」
「でも、だからって、お前に何も言わずに消えたのは違った」
そう言って、私を見た。
「本当に、ごめん」
今度は、私もちゃんと顔を見てうなずいた。
「……うん」
許すことと、なかったことにすることは違う。
私は、傷ついた。
悲しかった。
でも、これからの〇〇を見たいとも思った。
だから、今ここで、ちゃんと話してくれたことが嬉しかった。

