滑り込んだ改札口。アオが慌てて電子マネーをタッチして、ホームへと駆け上がっていく。
閉まるドアの向こう、濡れた髪のまま「また明日ね!」と小さく口を動かして手を振る彼女の姿を、僕はただ見送ることしかできなかった。
ガタゴトと音を立てて遠ざかっていく、電車の赤いテールランプ。
それが見えなくなって初めて、僕は自分がひどく息を切らせていることに気づいた。
一人、雨の上がった駅前を歩く。
雲の切れ間から、夜の気配を孕んだ群青色の空がのぞいていた。
さっきまで繋いでいた右手のひらが、まだ妙に熱い。
「お前が、いるからだろ」なんて、あんなのほとんど告白みたいなものじゃないか。思い出すだけで、心臓の奥のビートがまたうるさく暴れ出す。
でも、後悔はしていなかった。
むしろ、胸の奥を占めているのは、これまでに味わったことのないほどの高揚感だ。
昨日まで、僕の日常はどこにでもあるグレーの景色だった。冷めた目で世界を見て、何も期待せず、ただやり過ごすだけの毎日。
それなのに、あの日、アオが僕に向かって悪戯っぽく笑った瞬間から、僕の世界のトーンは完全に変わってしまった。
僕のなかの「青春」という名の何かが、今、信じられないほどのスピードで加速している。
それは一度走り出したら二度と止まれない、コントロール不能な初期衝動(インクレディブル)。
あいつがそこにいるだけで、僕の世界は一瞬で『Sunny day』になる。
アオのノートの綺麗な丸文字、かすかに漂う甘い香り、雨宿りの駐輪場での近すぎる距離、そして、夕暮れの中に伸びていた二人の長い影――。
胸の奥で膨らみきったこの熱量が、この先どこへ向かうのか、僕にはまだ分からない。
ただ、次にアオと目が合うその瞬間、たった1秒の決定的な瞬間に、僕はもう戻れないところまで「落ちて」しまう。そんな予感だけが、確信となって僕の胸を支配していた。
――「秒で落ちた」その瞬間のカウントダウンは、もう始まっている。
閉まるドアの向こう、濡れた髪のまま「また明日ね!」と小さく口を動かして手を振る彼女の姿を、僕はただ見送ることしかできなかった。
ガタゴトと音を立てて遠ざかっていく、電車の赤いテールランプ。
それが見えなくなって初めて、僕は自分がひどく息を切らせていることに気づいた。
一人、雨の上がった駅前を歩く。
雲の切れ間から、夜の気配を孕んだ群青色の空がのぞいていた。
さっきまで繋いでいた右手のひらが、まだ妙に熱い。
「お前が、いるからだろ」なんて、あんなのほとんど告白みたいなものじゃないか。思い出すだけで、心臓の奥のビートがまたうるさく暴れ出す。
でも、後悔はしていなかった。
むしろ、胸の奥を占めているのは、これまでに味わったことのないほどの高揚感だ。
昨日まで、僕の日常はどこにでもあるグレーの景色だった。冷めた目で世界を見て、何も期待せず、ただやり過ごすだけの毎日。
それなのに、あの日、アオが僕に向かって悪戯っぽく笑った瞬間から、僕の世界のトーンは完全に変わってしまった。
僕のなかの「青春」という名の何かが、今、信じられないほどのスピードで加速している。
それは一度走り出したら二度と止まれない、コントロール不能な初期衝動(インクレディブル)。
あいつがそこにいるだけで、僕の世界は一瞬で『Sunny day』になる。
アオのノートの綺麗な丸文字、かすかに漂う甘い香り、雨宿りの駐輪場での近すぎる距離、そして、夕暮れの中に伸びていた二人の長い影――。
胸の奥で膨らみきったこの熱量が、この先どこへ向かうのか、僕にはまだ分からない。
ただ、次にアオと目が合うその瞬間、たった1秒の決定的な瞬間に、僕はもう戻れないところまで「落ちて」しまう。そんな予感だけが、確信となって僕の胸を支配していた。
――「秒で落ちた」その瞬間のカウントダウンは、もう始まっている。



