世界が青色にひっくり返る、たった一秒の奇跡――BLUE DIARYを抱きしめて――

「何? 私の顔に、また何か教訓でも書いてある?」
アオが自分の頬を指さして悪戯っぽく笑った、その瞬間だった。
ポツリ、と冷たいものが鼻先を叩く。
見上げれば、さっきまで鮮やかだった茜色の空に、急速に黒い雲が広がっていた。街がざわめき出すよりも早く、斜めの大粒の雨が激しくアスファルトを打ち付け始める。
「わっ、急に!? ハル、あっち!」
アオに腕を引かれ、僕たちは近くの古い駅の、錆びついたトタン屋根の駐輪場へと滑り込んだ。
一歩遅れて、世界がバケツをひっくり返したような土砂降りに包まれる。
「冷たーい! 完全に油断したなぁ」
アオは制服の肩をすぼめながら、小さく息を吐いて髪をかき上げた。狭い駐輪場の屋根の下、激しい雨音に周囲の雑音がすべてかき消され、僕たちの世界は一瞬で二人きりになった。
近すぎる。
肩が触れ合いそうな距離で、雨に濡れて少し肌に張り付いたシャツや、湿った髪から、アオの甘い香りがより一層強く漂ってくる。
「……ハル、本当に今日、ずっと変だよ?」
雨の遮音壁の中で、アオの澄んだ声だけが妙にハッキリと耳に届く。
彼女がそっと僕の顔を覗き込んできた。その綺麗な瞳に、ひどく狼狽している僕の顔が映っている。
ドクン、ドクン、と心臓のビートが耳の奥でうるさいほどに鳴り響く。
もう抑え込めない。脳のストッパーなんて、あの雨上がりの日からとっくに壊れていたんだ。
昨日までグレーだった退屈な日常を、鮮やかな青に塗り替えてしまった張本人が、こんなにも近くにいる。アオが僕を惑わせる。アオが僕のペースを狂わせる。これはもう、自分の理屈じゃ説明できない――言葉にならない初期衝動(インクレディブル)が、僕の胸の中で限界を迎えていた。
「ハル……?」
僕の視線に圧倒されたのか、アオの悪戯っぽい笑みがすっと消え、小さな唇がかすかに開く。
激しい雨の音。楽曲のサビが最高潮を迎えるような、息が止まるほどの緊張感。
僕はただ呆然と彼女を見つめることしかできなかった。いや、見つめるだけで、もう世界中の何よりも胸が痛くて、苦しくて、眩しかった。
「――お前が、いるからだろ」
気がつけば、雨音に負けないくらいの声が、僕の口からこぼれ落ちていた。
「え……?」
アオが目を見開く。
もう引き返せない。理屈抜きの嵐が、僕たちを完全に飲み込んでいた。