世界が青色にひっくり返る、たった一秒の奇跡――BLUE DIARYを抱きしめて――

静まり返った夜の自室。ハルはベッドに寝転んだまま、頭上で持ち上げたスマホの液晶画面をじっと見つめていた。
学校で、あの「1秒の奇跡」に秒で落ちてしまったあの日から、ハルはアオの前で上手く振る舞えなくなっていた。話しかけられても変にドギマギしてしまったり、ただの友達としての距離感がどうしても掴めなかったり。そんな自分が情けなくて、もどかしい。
(……なんて送れば、自然なんだろ)
メッセージの入力画面。文字を打っては消し、消してはまた打ち直す。
「今日の小テスト、まじでお前のせいで最悪だったわ」
「明日の予習やった?」
どれもこれも、わざとらしく思えて送信ボタンが押せない。
ポーン、と不意に通知音が鳴るたびに、ハルの心臓はドクリと跳ね上がる。けれど、画面に表示されるのは公式アカウントからのポップアップか、シュンからのくだらない動画のリンクだけだ。
アオに送った最後のメッセージには、いまだに「既読」の文字がつかない。
画面を見つめたまま、ハルは深い闇に沈んでいくような錯覚に陥る。
今、アオは何をしているんだろう。誰と話しているんだろう。もしかして、僕のことなんてこれっぽっちも考えていないんじゃないか。
そんな画面越しの焦燥感が、胸の奥でドス黒い独占欲へと形を変えて暴走しそうになる。
(ダメだ。完全に僕の心は、アオに100%支配されてる……)
理性の完全な敗北だった。あいつが隣にいない夜の静寂のなかでさえ、僕はアオという存在から一歩も逃れられない。
ハルは小さく息を吐き出すと、これ以上画面に振り回されるのを拒むように、スマホをベッドの上に思い切り裏返した。
あえて目に入らないようにして、自分の心を強制的に「オフライン」にしようとする。けれど、液晶の光が消えて完全に遮断されたはずの暗闇のなかでも、脳裏に浮かぶのはあの夕暮れに悪戯っぽく笑うアオの姿だけだった。