一時間目の現国。
先生の朗読する夏目漱石の『こころ』が、今のハルの耳には子守唄代わりにすらならない。頭の中は、朝一番にシュンにぶち壊された、あの告白の続きのことでいっぱいだった。
(……あそこまで言って、お預けとか生殺しすぎるだろ)
悶々とした気持ちでノートの端にシャーペンを滑らせていると、不意に、左斜め前の席からアオがすっと腕を伸ばしてきた。
ハルの机の端に、小さく折りたたまれたノートの切れ端が置かれる。
心臓が跳ね上がる。ハルは周囲をそっと見回し、先生が黒板に向いた瞬間に、その紙切れを素早く手の中に滑り込ませた。
こっそり開くと、そこにはアオの、あの綺麗な丸文字。
『さっきの続き。……なん、て言おうとしたの?』
文字の最後、小さく疑問符が揺れている。書くときに緊張していたのか、いつもより少しだけ筆圧が強い気がした。
ハルはゴクリと唾を呑み込んだ。胸の奥で、青いドットが弾けるような高鳴りが再び暴れ出す。理屈なんていらない。このノートの端っこなら、どんな暴走(インクレディブル)だって許される気がした。
ハルは自分のノートを少しだけアオの席に近づけ、教科書の影に隠しながら、シャーペンで力強く書き殴った。
『お前のことが、ずっと好きだ。友達じゃなくて、それ以上に』
書き終えた瞬間、心臓が爆発しそうになる。ハルはアオの机に向けて、自分のノートをすっとスライドさせた。
ノートが届いたのを視界の端で捉えたアオが、一瞬、びくっと肩を揺らす。
アオはそっとノートを覗き込むと、そのままピキッと動きを止めた。すぐに、彼女の白い首筋から耳の裏までが、みるみるうちに真っ赤に染まっていくのがハルの席からでもはっきりと見えた。
アオは顔を伏せたまま、震える手でシャーペンを握り、ハルのノートのさらに端っこに、小さな文字を付け足していく。
数秒後、ハルの元に戻ってきたノート。
そこには、掠れそうな小さな文字で、こう書かれていた。
『……知ってた。でも、ハルの口から、ちゃんと聞きたかった』
その文字の横に、小さく『私も』とだけ書き添えられて、矢印がハルの文字に向かって伸びている。
たった数文字の、秘密の筆談。
でも、その瞬間、ハルとアオの世界は完全に一つに重なった。一瞬で、秒で、僕たちは戻れないところまで落ちて、そして最高の『Sunny day』を迎えたんだ。
先生の朗読する夏目漱石の『こころ』が、今のハルの耳には子守唄代わりにすらならない。頭の中は、朝一番にシュンにぶち壊された、あの告白の続きのことでいっぱいだった。
(……あそこまで言って、お預けとか生殺しすぎるだろ)
悶々とした気持ちでノートの端にシャーペンを滑らせていると、不意に、左斜め前の席からアオがすっと腕を伸ばしてきた。
ハルの机の端に、小さく折りたたまれたノートの切れ端が置かれる。
心臓が跳ね上がる。ハルは周囲をそっと見回し、先生が黒板に向いた瞬間に、その紙切れを素早く手の中に滑り込ませた。
こっそり開くと、そこにはアオの、あの綺麗な丸文字。
『さっきの続き。……なん、て言おうとしたの?』
文字の最後、小さく疑問符が揺れている。書くときに緊張していたのか、いつもより少しだけ筆圧が強い気がした。
ハルはゴクリと唾を呑み込んだ。胸の奥で、青いドットが弾けるような高鳴りが再び暴れ出す。理屈なんていらない。このノートの端っこなら、どんな暴走(インクレディブル)だって許される気がした。
ハルは自分のノートを少しだけアオの席に近づけ、教科書の影に隠しながら、シャーペンで力強く書き殴った。
『お前のことが、ずっと好きだ。友達じゃなくて、それ以上に』
書き終えた瞬間、心臓が爆発しそうになる。ハルはアオの机に向けて、自分のノートをすっとスライドさせた。
ノートが届いたのを視界の端で捉えたアオが、一瞬、びくっと肩を揺らす。
アオはそっとノートを覗き込むと、そのままピキッと動きを止めた。すぐに、彼女の白い首筋から耳の裏までが、みるみるうちに真っ赤に染まっていくのがハルの席からでもはっきりと見えた。
アオは顔を伏せたまま、震える手でシャーペンを握り、ハルのノートのさらに端っこに、小さな文字を付け足していく。
数秒後、ハルの元に戻ってきたノート。
そこには、掠れそうな小さな文字で、こう書かれていた。
『……知ってた。でも、ハルの口から、ちゃんと聞きたかった』
その文字の横に、小さく『私も』とだけ書き添えられて、矢印がハルの文字に向かって伸びている。
たった数文字の、秘密の筆談。
でも、その瞬間、ハルとアオの世界は完全に一つに重なった。一瞬で、秒で、僕たちは戻れないところまで落ちて、そして最高の『Sunny day』を迎えたんだ。



