脅迫婚?!~悪い噂の絶えない社長が、実は誠実で一途だったなんて信じられません!~


「でも、君は経営者一族でもある。もしも今のカタセを変えたいと思うのなら、上の立場に行くのもひとつの手段だ」
「え?」
「昨日の話。現場から会社を盛り立てるのは不可能ではないし、カタセの商品はこの時代においても十分通用する。だからこそ愛梨が歯がゆく思っているのもわかる。だが、社内規定や稟議制度を変えられるのは原則経営陣のみだ。コネでもなんでも使えるものを使うのを、俺は悪いとは思わない。もちろん会社や社員のためだというのは当然の前提だけどな」

理人の話を聞き、愛梨はそういう考え方もあるのかと新しい気付きを得た。

一族経営だからこそ無用な後継者争いが起きないよう、入社時からずっと経営にかかわる部署を避けてきたし、〝社長の娘〟というカードを使ってはいけないとさえ思っていた。

けれど、一概にそうではないと彼は言う。現場の意見を吸い上げることのできる経営陣がいることで、社内に蔓延るもどかしい慣例を廃止できるようになるかもしれないのだ。

「たしかに、その通りですね。一度ちゃんと考えてみます。ありがとうございます、理人さん」

隣を見上げてお礼を伝えると、彼は苦笑して言った。

「せっかくふたりきりで出掛けているのに、俺たちは仕事の話ばっかりだな」
「ふふ。そのための結婚ですから、それも私たちらしくていいんじゃないですか?」